<球児のために>2020年センバツを前に 脱・詰め込み 自主性信じ待った
2月1日、寒風吹く兵庫県立赤穂高校(兵庫県赤穂市)のグラウンドで、神崎(同県神河町)との合同練習が行われた。シートバッティングのマウンドでは、赤穂の1年生投手が四球を連発していた。赤穂の頓田(とんだ)郷平監督(32)は「以前の自分ならすぐに交代させていました。大切なのは本人がどう受け止めるかです」。結局、予定の20分間をほぼ投げさせた。 【動画】センバツ出場校、秋季大会熱闘の軌跡 頓田監督はUターン指導者だ。赤穂OBで、首都大学リーグの名門・東海大に進学。1学年下にロッテの伊志嶺翔大コーチ、2学年下には菅野智之投手(巨人)、田中広輔選手(広島)と力のある後輩がそろう中、4年時に補欠ながら主将に選ばれた。「後輩たちがプレーしやすい雰囲気を作ることに徹した」と振り返る。 高校野球の指導者になろうと、卒業後、兵庫に帰り教員になり、2015年度に八鹿(養父市)に着任。4年目の18年秋、試練が訪れた。選手が7人になったのだ。秋季地区大会を前に、部員たちに「他の運動部員で人数をそろえるか、他校と連合チームを組むか」問いかけたところ、返事は「僕らと同じように、野球で上を目指している仲間とやりたい」。本気で残った部員たちにとことん向き合い、勝たせたいと心から思った。 これまで自分が受けてきた、肉体的にも精神的にも追い込めばうまくなるという指導が通用せず、部員も減った。理想と現実がかけ離れていたのだ。「野球で『おなかいっぱい』にして満足するのは指導者だけ。そこに部員のやる気が入る余地はない」と悟った。生野(朝来市)との連合チームは選手計9人。エラーやミスをしても「一番うまくなりたいと思っているのは部員たち」と信じ、少し待って時間を与えたところ、選手たちが自ら動き出した。 全体の朝練をやめると、自主練習に火が付き、故障も減った。そこに自身の野球経験を生かした投手指導を組み合わせたところ、秋の地区大会で3勝し、県大会進出を果たした。連合チームとしては兵庫県初の快挙。頓田監督は「野球人生を変えた出来事でした」と振り返る。 19年秋に母校の監督に就任。ここでも「脱・詰め込み」指導で臨んだところ、19年秋季県大会で3試合零封勝ちの快進撃を見せ、8強に進出した。この活躍で県選抜に選ばれたエースの山本颯真(そうま)投手(2年)は「監督から一方的に言われることがなくなった。課題が見つかると、じゃあどうすればいいか、自分たちで考えるようになった」と実感を込める。 「うちでは課題を『伸びしろ』と呼んでいます」と頓田監督。難波誉大(たかひろ)主将(2年)は「選手のやる気は上がっている。目の前の試合を一つ一つ、戦うだけ」。今春の目標は、近畿大会出場だ。【福田隆、写真も】