アナウンサー内定取り消しで日テレを提訴 「内定」の法的な性格とは? 弁護士・蒲俊郎
報道によれば、話題の裁判は、内定取消を受けた女性(元ミス東洋英和)が、日テレに対し、内定取消は無効であり、同社に入社する権利があることの確認を求めたものです。現時点では、日テレ側の正式な主張は不明ですが、従前のやり取りでは、「アナウンサーには高度の清廉性が求められる」、「セミナーで提出した自己紹介シートにクラブでのバイト歴を記載しておらず虚偽の申告だ」との主張が為されていたようですから、基本的にはそれらが内定取消事由として裁判でも主張されると思われます。つまり、女性が銀座のクラブでホステスのアルバイトをしていた事実及び自己紹介シートにそのバイト歴を記載しなかった事実を理由とする内定取消が、アナウンサーという職業に照らし、「客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができる」かが争われるわけです。 この点、学歴などの重要な経歴ではなく、単なるバイト歴を自己紹介シートに記載しなかったことを理由とするのは、職歴欄に全てのバイトを詳細に記載するように明記されているような例外的場合でない限り難しいと思われます。従って、裁判では、アナウンサーに「高度の清廉性」が求められるという「アナウンサーという職業の特殊性」が争点になりそうです。これは、アナウンサーという職業をどのように捉えるかという問題であり、人によって意見も異なるでしょうし、法解釈の問題ではありませんからコメントを差し控えますが、判例のこれまでの傾向からすると、日テレの主張が認められる可能性は低いと言わざるを得ません。 従来、裁判において、内定取消が認められるような事実は限定されており、対象学生が現行犯として逮捕され起訴猶予処分を受ける程度の違法行為をしていた事実が内定後に判明した場合(電電公社採用内定取消事件、最高裁判所・昭和55年5月30日判決)や、業績悪化により正社員ですら雇用調整の対象となるほどの状況に陥った場合のように、相当の理由がないと、裁判所の指摘する要件を満たすのは難しいと一般に考えられているからです。