75歳「語り部」男性のあふれるアイデア 「当たり前の街並みを、違う角度から見る」楽しさとは
紅葉が見頃を迎える京都府精華町のけいはんな記念公園。清水泰律さん(75)が愛用するリュックサックには、イベントごとに手作りした缶バッジが輝く。来園者と一緒に園内を巡りながら「あの巨石群は瀬戸内海の犬島から運ばれた御影石。職人たちが切り出した跡も見られる」と、見どころや来歴、うんちくを次々と披露していた。 清水さんは、「語り部」として地域の歴史や文化、自然などを紹介するNPO法人「精華町ふるさと案内人の会」の理事長を2019年から務める。会員28人でアイデアを出し合いながら、町内のガイドツアーの企画や、園内の「森のカフェながたん」の運営に取り組んでいる。 京都市北区出身。精華町に引っ越して30年近くたつが、サラリーマン時代は「わが町」について意識したことはなかったという。60歳で定年を迎えた後、仲間作りのために入会。印象に残っているのは、同町植田集落のガイドツアーを初めて担当した時の出来事だ。 資料を作るため、町内を頻繁に訪れていたという近代を代表する京都の陶芸家・河井寛次郎氏の日誌を読み込んだ。「何も知らずにこんな美しい村に住まっているという事自体、これ以上に素晴らしい事はない」。地域愛あふれる記述が目に留まり「町について知っているようで知らないことばかりだ。多くの人に地域の魅力を再発見してもらいたい」と活動への意欲が強くなった。 町内のほとんどの道を歩き回ったといい、芋掘りや社寺の祭礼、研究施設の見学会など「せいか小さな旅」「ふるさと発見の旅」と題した多彩なツアーを毎月企画している。3カ月前から現地の下見や資料制作など、会員と分担しながら念入りに準備を進める。ガイドブックやインターネットでは手に入らない「面白い情報」を伝えようと、下見では住民しか知らないような言い伝えや思い出話などを尋ね回り、ツアーに反映させることを心がける。 10月下旬には、地図を片手にチェックポイントを巡って得点を競う「ロゲイニング」大会を初めて実施した。これまでの企画は高齢層が目立っていたが、親子連れなど若い世代もゲーム感覚で参加し、手応えを感じたという。「当たり前に思う街並みを、違う角度から見る楽しさをこれからも伝えていきたい」。