「がん保険」と「地震保険」の意外な共通点 入っていいのはどっち?
『この保険、解約してもいいですか?』(日経BP)を刊行。有料の保険相談を長年、続けてきた後田亨氏が、保険加入にニュース報道が及ぼす影響を考察する。 【関連画像】地震保険の世帯加入率。損害保険料率算出機構が公表するデータを基に作成 「『がん保険』の資料請求ですか? キャサリン妃のニュースが報じられた日は、少し増えました。よくあることです」 イギリス王室のキャサリン皇太子妃が、3月22日(現地時間)、がんの治療中であると発表した。このニュースが流れた数日後、ある保険代理店の人に「がん保険の問い合わせは増えましたか?」と尋ねてみたところ、上記のような返信が来た。 ただし、「小林麻央さんのとき(*1)と比べると全然、微増という程度」だと言う。「著名人といっても、イギリス王室と日本の芸能界では身近に感じられる度合いが違うでしょうし、小林さんはまだ30代でしたから、インパクトも大きかったですよね」。 アフラック(*2)の社員から数年前、「著名人ががんにかかったという報道の後は『がん保険』の資料請求や加入申し込みが増えます」と聞いた。また、筆者自身が大手生保の販売員だったころから、著名人はもちろん、親族から知人まで、近しい人の入院や急死などをきっかけに、保険加入や契約の見直しに動く人が多いことも実感している。 人は、身近に感じられる出来事があると、関連する商品やサービスを利用する可能性を高く見てしまいがちなのだ。行動経済学で「利用可能性バイアス」と呼ばれる傾向だ。 *1.フリーアナウンサーの小林麻央さんは、2000年代にテレビのニュース番組などで活躍した後、歌舞伎俳優の市川海老蔵さんと結婚。2017年にがんで亡くなった。34歳だった *2.正式な社名はアフラック生命保険株式会社 ●地震保険に入りたくなるのは、どんなとき? 先ほどのがん保険もその一例だが、わかりやすいのは「地震保険」の加入率だろう。 「損害保険料率算出機構」のサイトにアクセスすると、地震保険の「世帯加入率」のデータを、1991年度まで遡って都道府県別に入手できる。過去30年の間に大きな地震による被害が発生した地域について、推移を調べてみた。 https://www.giroj.or.jp/databank/earthquake.html 1995年の兵庫県、2011年の宮城県、2016年の熊本県で、それぞれ加入率が著しく伸びている。 1995年は1月に阪神・淡路大震災が、2011年は3月に東日本大震災が、2016年は4月に熊本地震が起こっている。つまり、被災した地域の人たちの加入が急増したのだ。 興味深いのは、大きな震災の後であっても、被災地から離れた都道府県においては、加入率にそれほど大きな変化が見られないことだ。また、被災地における加入率の増加も、被災の翌年には緩やかになる傾向も見られる。やはり、人の行動に与える影響が大きいのは、時間的にも距離的にも身近な出来事なのだろう。 利用可能性バイアスに基づく判断は、合理的なものではない。保険の加入に経済的な支出が伴うことを考えれば、身近なところで地震が起きたとか、がんにかかった人がいるとかいった理由だけで、すぐに保険に入ってしまうのはお勧めできない。 では、どうしたらいいのか。