「がん保険」と「地震保険」の意外な共通点 入っていいのはどっち?
原理原則で考えれば「がん保険」は必須でない
まずは、利用可能性バイアスを認めることではないか、と筆者は考えている。例えば、著名人ががんの治療を受けているというニュースを見て「がん保険」の加入を急ぎたくなる気持ちになったら、そんな自分の反応をごく自然なものと受け止める。 その上で、原理原則に立ち返る。合理的でない自分の気持ちを受け入れながら、気持ちのままに動くのではなく、一度、立ち止まってみるわけだ。 これまでの記事で繰り返し書いているように、保険の利用がふさわしいのは「稀(まれ)に起こる緊急かつ重大な事態」だ。 そうすると、がん保険への加入は必須ではない、と考えられる。国の医療保険制度により、医療費の自己負担には上限があるからだ。 「医療費は大丈夫でも、仕事に影響が出て収入減も考えられる」と主張する保険業界関係者もいる。しかし、収入が減るのはがんにかかったときばかりではない。交通事故によるケガやうつ病など、あらゆるケースで収入減は考えられる。それなのに、がんによる収入減をことさら問題視するのは、「がん保険という市場」が、業界関係者にとって大きな存在だからではないか。少なくとも筆者は、がんにかかったせいで家計が破綻した人を知らない。冷静になりたいと思う。 なお、がん保険が、率直に言って、暴利を疑われる商品であることについては、別の記事(「がん保険」は必要? 「2人に1人がかかる」なら、答えは自明)をお読みいただきたい。 ●地震保険の必要性と限界 一方、地震保険は、がん保険より必要性が高いと考える。なぜなら、国の「被災者生活再建支援制度」から得られる支援金は、最大で300万円だからだ。もしも地震で自宅が全壊したら、300万円の支援金だけでは足らないだろうし、それに自分のお金を足しても、自宅を再建するといったことは難しいかもしれない。 ただし、地震保険には限界がある。 そもそも地震保険は、法律に基づいて政府と民間の損害保険会社が共同で運営する保険であり、一般的な民間の保険とは性質が異なる。そして、その保険内容には、いくつかの制約がある。まず、単独では契約できず、火災保険とセットにしなければならない。また、保険金額は火災保険の契約金額の30%~50%の範囲内で設定され、建物は5000万円、家財は1000万円が限度額となっている。 それでも、地震による自宅の倒壊などは、やはり「稀に起こる緊急かつ重大な事態」であるに違いない。住宅ローンを抱えている人などであれば、がんの医療費とは桁違いのお金が必要となる場合もあるだろう。従って、原理原則に立ち返っても、地震保険は検討に値するはずだ。この判断は、被災を身近なこととして感じられるか否かに関わらない。 人の気持ちは揺れやすい。インパクトがあるニュースや体験談には動揺する。 筆者も、この1月は飛行機での出張に気が進まなかった。羽田空港で日本航空の旅客機と海上保安庁の航空機が衝突、炎上する事故があったからだ。しかし、冷静になってみれば、飛行機に乗って事故に遭う確率は変わらないはずで、大きな事故の直後だから気が進まないというのも、おかしな話だ。 だからこそ、保険契約については、どんなときも変わらない、原理原則に基づく判断をしたいと思う。
後田 亨