寄贈された掛け軸に描かれた絵＝別府市美術館提供

　大分県別府市にあった福岡県・筑豊の「炭鉱王」伊藤伝右衛門の別荘「赤銅御殿」に飾られていた掛け軸が今夏、市に寄贈された。掛け軸は歌人として知られる伝右衛門の元妻、柳原白蓮の部屋を彩ってきた物で、別荘を改装したホテルで20歳代まで育った横浜市の矢幅美穂さん（75）が長く保管してきた。矢幅さんは「別府のために役立ててもらえたらうれしい」と話しており、市は一部を修復後、市内で公開する考えだ。（池田圭太） 【写真】1940年代に撮影されたとみられる「赤銅御殿」＝別府市教委提供

　「情熱の歌人」として知られる白蓮は、華族の次女として1885年（明治18年）に東京で生まれた。1911年に伝右衛門と再婚したが、21年に年下の恋人と駆け落ち。新聞紙上に白蓮の絶縁状が公表され、「白蓮事件」として世間の注目を集めた。

　矢幅さんは自身が高齢になってきたことから、今年5月、別府市教育委員会に寄贈を打診した。掛け軸は縦約183センチ、横約68センチ。別府市美術館の荒金薫学芸員が調査し、落款や絵の色遣い、構図、模様のほか、矢幅さんの話も総合して、江戸時代後期に美人画を得意とした浮世絵師・三畠上龍の作品と判断した。

　絹地に顔料で巫女装束と思われる衣服の女性が描かれている。上着には中国の神話に登場する霊獣があしらわれ、桜模様の下地には、にかわに金を混ぜた「金泥」が使われている。一部が傷んでいるものの保存状態は良いという。

　荒金学芸員は「構図や化粧の描き方に、三畠の作品の特徴が出ている。白蓮ゆかりの掛け軸が現存していたことに、驚いている。赤銅御殿が存在したことを実感でき、別府の歴史を語る上でも意義のある作品だ」と話す。

　赤銅御殿は、矢幅さんの父で実業家だった首藤克人氏が買い取り、ホテルとして経営。矢幅さん一家も御殿で暮らした。矢幅さんによると、掛け軸は伝右衛門が白蓮のためにしつらえた「白蓮の間」と呼ばれる2階の座敷に飾られていた。

　白蓮は、矢幅さんの母・静香さんと親交があり、ホテルになってからも毎年、「ただいま」と顔を見せていたという。