アメリカ企業とは「もはや勝負にはならない」日本のAI研究開発予算…それでもGoogle出身の人工知能研究者が日本で起業したのはなぜ?
「個」を見るか「集合体」を見るか
ところで、なぜsakana.aiは、わざわざ日本で起業したのか? そもそもなぜ「sakana=魚」なのだろうか? それは、巨大なAIを「群知能」として構築することを目的としているからである。 ある要素の群れから、集合体としての要素が生まれる現象のことを「創発現象」と呼ぶことはすでに述べた。そして、アリと列の関係や、魚と群れ、脳神経細胞と脳という塊の関係において、あくまで個々の要素しか見ないモノの見方と、個々の集合体として創発される一つの塊を一つのモノとして見る見方とのどちらのほうが強い傾向があるかが、実は東洋と西洋では大きく異なるのだ。しかも、グローバル化した現在においてもその傾向は変わらない。 ここで、リチャード・E・ニスベットの『木を見る西洋人 森を見る東洋人』という書籍を紹介しよう。その中に興味深い図が描かれている。ヒマワリのイラストがそれぞれ四つ描かれた二つのグループがある。左側のグループに描かれたヒマワリは、四つのうち三つのヒマワリの花びらが丸形で大きく、一つのみが三角形のような形で小さい。茎は四つ全部が曲がっている。葉は四つのうち三つにそれぞれ一つずつ付いている。一方、右側のグループは、三つのヒマワリの花びらは小さめの三角形で、一つのみが大きい丸型になっている。茎は四つ全部がまっすぐで、葉は一つの花にのみ付いている。
さて、次に、「大きい丸型の花びらで、葉が付いていて、茎がまっすぐ」なヒマワリの絵(ターゲット)が示されるのだが、あなたならそれを、右・左どちらのグループに入れるだろうか。これはどちらを選択したほうが正解ということではなく、モノの見方が人によって大きく異なることを実感していただく例として引用した。 同書によれば、興味深いことに、東洋人は、ターゲットはグループ1(左側)に属すると答え、西洋人に尋ねると、彼らはグループ2(右側)に属すると答える割合が高いのだという。ちなみに、筆者もグループ1だと感じた。 国内のあちらこちらで講演をした最後にこの質問をすると、日本人においてはやはり大半がグループ1だと回答するケースが多い。しかし、米国の大学で講演した際にも同様の質問をしたら、大半がグループ2と回答したときはやはり驚いた。