アメリカ企業とは「もはや勝負にはならない」日本のAI研究開発予算…それでもGoogle出身の人工知能研究者が日本で起業したのはなぜ?
小粒AIの開発にシフトする日本
さて、そのような状況において、日本国内では小規模の基盤モデル構築があちこちで進んでいる。いわゆる小粒AIである。用途を限定すれば小粒でも有用であることは間違いなく、国内産業活性化に役立つことも間違いない。ただ、GPT-4のような大粒AIを構築できないという消極的な理由からの小粒モデル開発へのシフト、というのは残念なことではある。 複数の研究開発業者が似たようなデータを使い、どんぐりの背比べのように小粒AIを多数開発すること自体、省エネではない(非効率)と思うところもある。また、OpenAIのような巨大企業も精力的に多言語化を進めているので、今後リリースされるOpenAIの巨大な基盤モデルであるGPTシリーズにおいて日本語特化型が発表されれば、その時点で小粒AIのメリットは一瞬にして吹き飛び、日本語に特化された海外巨大AIに置き換わってしまうだろう。
経済安全保障の観点からも、国産の巨大AIを独自に構築して運用することは絶対に必要であると思うが、そのための開発費の捻出が難しいのが現状である。
小粒AIの集合体がASIを生み出す可能性
しかし、巨大AIが開発できないことのデメリットを打破できる可能性がある(それに気がつき始めたのが海外の研究者であるというのが残念なところだが)。何かというと、「スケール化」による性能の向上という手である。一つの巨大AIを作るのではなく、小粒AIを束ねてスケール化することで、上位のスケールとして大粒を越える性能のAIを構築しようという戦略である。 それぞれ特徴の異なる小粒AIの集合体のほうが、多様性の観点において単体の巨大AIよりも高い性能を発揮できる可能性すらある。実際、小粒モデルを集合させることで高い性能を発揮する基盤モデルの構築をめざすスタートアップ(sakana.ai)が米国ではなく日本で立ち上がっており、今後この流れが加速するかもしれない。 そして、小粒AIを集合させる考え方の延長線に、実はASI(Artificial Super Intelligence/人工超知能)が見えてくるのだ。ASIは、我々が構築するAIがスケールすることで創発(多数の個が群れることで、群れを一つの個とする能力が生まれる現象のこと)するのかもしれないのだ。 小粒AI同士を連携させて、大粒AIの性能を発揮させようとするのは、我々が構築できるAIのスケールの世界での話である。もちろん、ChatGPTのように、計算リソースやAIの大きさをスケールすることで性能が大きく向上したことと同じことが、小粒AIをスケールすることで起こせる可能性は十分にある。 我々の理解できない高いコミュニケーション能力を持つ言語を生み出したり、ノーベル賞級の新たな発見をしたりイノベーションを起こせたりする可能性は多分にある。そうであっても、そのAIは我々が理解できる範囲から大きくは逸脱しないのだと思うわけである。その意味ではそのAIはまだASIとは言えない。