根岸季衣、名だたる監督に呼ばれたのは「本当に財産です」 黒澤明監督の現場ではリチャード・ギアとも共演「一番日本人ぽかった」
大林宣彦監督との出会い
1983年、根岸さんは大林宣彦監督の映画『時をかける少女』に出演。高校の実験室で白い煙とともに立ちのぼったラベンダーの香りをかいだ瞬間、意識を失い倒れてしまった芳山和子(原田知世)は、それ以来、時間移動(タイムトラベル)を繰り返すことに…というストーリー。根岸さんは、和子のクラス担任・立花尚子先生役を演じた。 「大林監督の『転校生』も見ていたし、お話が来たときはうれしかったですね。『時をかける少女』の頃はまだ角川映画だったので、結構ゆったりしていたんですよね。お話する時間とか、食事に連れて行ってくださる時間もいっぱいあって。 だから何度も一緒に食事に行って“大林マジック”にやられちゃいましたね。『ああ、出会ったな』と思ってハマりました(笑)」 ――大林監督の作品に欠かせない俳優として知られ、27作品に出演されていますね。 「本当に財産ですよね。よく声をかけてくださったなって思います。大林さんがどうして私に声をかけてくれたのか、最初のきっかけはわからないですけど、監督は『この指とまれ』っていうシステムで。1回ちゃんと指にとまった人とはずっと付き合ってみたいって言っていました。 だから、人と人との出会いがやっぱりひとつの運命っていうか、すごくいい出会い方をしちゃったんだなって思います」 ――大林監督は、撮影現場ではどのような感じでした? 「すごく優しいときと、びっくりするぐらいワーッというときもありましたね。とくに晩年は鬼気迫るものがあって…すごい情念がダブルで出ているような感じでした。ご病気でおからだはもう弱ってらっしゃるのに、(深夜)12時を回っても撮影していましたからね。何か遺しているんだという、その力がすごかったですね」 ――大林監督の印象に残っていることは? 「誰にでもそうですけど、現場に行って『やあ、やあ、やあ』って言ってハグして握手して…みたいな、それがすべてかなという感じですね」 大林監督の『廃市』の根岸さんも印象的だった。この作品は、古い歴史を持つ運河の町の旧家を訪れた青年・江口(山下規介)のひと夏の出来事を描いたもの。江口はニュースで思い出の運河の町が火事で焼けたことを知る。そこは10数年前に江口が大学の卒論を執筆するために訪れた町だった。彼の脳裏にその町を訪れたときの記憶が蘇る…。根岸さんは、江口が滞在した旧家の娘・郁代役。妹の安子(小林聡美)と夫・直之(峰岸徹)の関係を疑い家を出て寺に住み込んでいる。 ――根岸さんのはかなげで凄絶な美しさがとても印象的でした。 「ありがとうございます。あれはト書きにいっぱい『美しい』って書いてあって、『本当にいいのかな?』って(笑)。人に話すときに、『小林聡美ちゃんと私が美人姉妹よ』って言うと、何か冗談を言っているみたいな感じなんですけどね(笑)。 でも、本気でそれをやらせてくれたというのは、さっきの山田(太一)先生の話じゃないけど、ちゃんと信頼をしてくれていたんだなって思いました」 ――大林監督は根岸さんに2枚目の役をやったら次は3枚目、そして次はまた2枚目という感じでバランスを考えてキャスティングされていたそうですね。 「それは取材の記者の方から言われて気がついたんですよ。『根岸さんって交互ですよね』って。それまで全然気がつかなかったんですけど、作品の並びを見てみるとたしかに交互になっていて、そんなふうに監督は考えてくださっていたのかなって。 大林監督が亡くなった後に聞かされたんですよね。『廃市』のようなステキな役をいただいてうれしかったです」 ――ちょっとこの世のものではないような雰囲気も漂っていて印象に残っています。 「監督に『これは滅んでいく人たちの物語ですから、全員痩せてきてください』って言われていたので、それなりに痩せて行ったんです。そうしたら、監督が思っていたより痩せていたみたいですごく感動してくれて。 そのときに峰岸徹さんも減量していたんですけど、たまたま監督の奥さんの大林恭子さんに誘われてうなぎ屋さんに入って、お店から出たときに監督と出くわしちゃって。『バカ!何をやっているんだ。根岸くんを見ろ!』って言われたのが本当につらかったみたいで。その悔しさを何度聞かされたことか(笑)。 峰岸さんもちゃんと減量してからだを作っていたんですけど、たまたまうなぎ屋さんに入っちゃったところを見つかってしまったというのが、本当に切なかったんじゃないですか。峰岸さんと会うと必ずその話になりましたからね(笑)」