『民王R』芝居の引き出しが試される遠藤憲一 予想を遥かに超えるあのの演技力の高さ
遠藤憲一が主演を務める『民王R』(テレビ朝日系)が10月22日にスタートした。 2015年に放送された『民王』(テレビ朝日系)の続編であり、池井戸潤による原作小説にインスパイアされた形での本作は、劇中でも政界引退を考える総理大臣・武藤泰山(遠藤憲一)が9年ぶりに総理大臣に返り咲くことになる。10月27日の衆議院議員総選挙を前にした、なんとも運命的なタイミングでのオンエアである。 【写真】武藤(遠藤憲一)と一緒に謝る冴島(あの) 前作からは遠藤憲一のほかに、通称「カリヤン」こと内閣官房長官の狩屋を演じる金田明夫、さらに公安の新田を演じる山内圭哉が続投。言ってしまえばほかのキャストは総入れ替えという、政党であれば少々不安要素とも思えるが、そこを担保しているのが放送直前に発表となったナレーション役の菅田将暉の存在である。 泰山の息子・翔として父との入れ替わりの名演を見せていた菅田。未曾有を「みぞうゆう」と読み間違えるのは、まさに前作を象徴する泰山(中身は翔)のセリフであり、終盤の翔としての手紙の音読からシームレスにナレーションへと移っていき、やがて民の神・民神(たみしん)であ~る(R)ことがラストに明らかになるという、『民王』らしいぶっ飛んだユニークな設定は健在だ。 そしてサプライズ登場となった、前作で泰山の秘書を務めた貝原(高橋一生)。9年ぶりに総理大臣に返り咲くことになった泰山は貝原に電話をするが、貝原本人はどこかの断崖絶壁を登山中。代わりに、優秀な秘書として送り込まれたのが、冴島優佳(あの)である。 事前に大々的に告知されているように、『民王R』は泰山が全10話の各話でそれぞれ違う人々と入れ替わりをしていくのが前回とは異なる大きなポイントだ。その1人目の入れ替わりの対象となるのが、冴島。つまりは泰山の中身が冴島になってしまうということになる。 特徴的なのは遠藤の舌足らずな喋り方……というか、ほとんどパブリックイメージの「あのちゃん」の喋り方と言ってもいい。冴島は普段のあのとは真逆とも言えるキャラクターなのだが、入れ替わるとまるであのちゃんになるというのは、より分かりやすくデフォルメするためだろう。冴島家も娘の喋り方を真似た時に、あのちゃんの口調だったのは決定的だ。 前作でのもう一人の主演が菅田だったように、今作では入れ替わりの相手がフィーチャーされる主役回とも言える。泰山が乗り移った冴島は、ガニ股で眉間に皺を寄せ、ドスのきいた声で喋る。筆者は『あののオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)や『あのちゃんねる』(テレビ朝日系)などを毎週視聴しており、特にラジオのコーナー「あのアニ」を聴いていれば、あのが憑依型なのは分かっていたが、その予想を遥かに超える演技力の高さに驚きを隠せなかった。 特筆すべきは泰山との入れ替わりが解けた後も、冴島が自身の演説、政治への思いを熱く語るシーン。anoとして音楽のステージで見せる感情的なスイッチを芝居に持ってきた印象のある胸を打つ場面であり、SNSでもその演技の上手さが大きな話題になっている。あのにとって、『民王R』は俳優としてのステップアップとなる作品になるのかもしれない。 X(旧Twitter)で世界トレンド1位を獲得し、民からの大きな支持を獲得しつつある『民王R』。第2話での入れ替わりとなるのは、闇バイトの若者・木下直樹(曽田陵介)。入れ替わりの対象は国民全員。ここから遠藤の10通りの演じ分け、芝居の引き出しが試されることとなる。
渡辺彰浩