“天の川銀河の恒星” だと思われていた天体、実は史上最も明るいクエーサーだったと判明!
■「天の川銀河の恒星」と思われていた天体は史上最も明るいクエーサーだった!
Wolf氏らの研究チームは「J0529-4351」という天体に着目して研究を行いました。この天体はESA (欧州宇宙機関) が打ち上げた宇宙望遠鏡「ガイア」の観測データによって作成された天体カタログ「Gaia DR3」に掲載されていましたが、そのカタログ上では「天の川銀河にある恒星である可能性が99.98%」とラベル付けされていました。 しかし、J0529-4351のスペクトルデータを見たWolf氏らは、それが恒星ではなく強い赤方偏移を示すクエーサーであると考えました。どれほど特徴的であったかと言えば、Wolf氏らが論文中で「ガイアのスペクトルに見慣れた天文学者なら、一目でクエーサーであると分かる」と表現したほどです。そして、サイディング・スプリング天文台(オーストラリア、クーナバラブラン)に設置された2.3m望遠鏡で観測を行った結果、J0529-4351が地球から約238億光年離れた位置にあり、今から約122億年前の時代に存在するクエーサーであることを確かめました(赤方偏移z=3.962)(※)。また、「超大型望遠鏡 (VLT) 」(チリ、パラナル天文台)による追加の観測データにより、クエーサーとしてのJ0529-4351の正確な性質が明らかになりました。 ※…この距離は、光が進んだ宇宙空間が、宇宙の膨張によって引き延ばされたことを考慮した「共動距離」での値です。これに対し、光が進んだ時間を単純に掛け算したものは「光行距離(または光路距離)」と呼ばれます。 J0529-4351はクエーサーとしても異常に明るい天体です。その明るさは2×10の41乗ワット(20正ワット)であり、太陽の約500兆倍、天の川銀河の約4万倍、典型的なクエーサーの約200倍も明るいことになります。これは、知られている中で最も明るいクエーサーです。余りにも明るすぎるために非常に遠くにある天体と認識できず、ガイアの自動ラベル付けが間違ってしまうのも仕方のないことです。同じような見逃しは数十年前から続いており、最も古い記録としては1980年に作成された別の掃天観測記録(SSS)にも写っていたものの、今まで見逃されていました。 この明るさは、J0529-4351が持つ超大質量ブラックホールの活動によって、その周りに作られた物質の円盤である降着円盤が熱せられることで生じていると考えられています。J0529-4351の降着円盤は直径約7光年もあると考えられており、知られているものとしては最大の降着円盤です。中心部にある超大質量ブラックホールは太陽の約170億倍もの質量を持つとされており、これはブラックホールの質量ランキングで上位に位置することになります。この明るさを説明するためには、そのエネルギー源として1日あたり太陽ほぼ1個分の質量の物質を吸い込んでいると考えられます。この物質の吸い込み量 (降着率) も、知られているクエーサーの中では最大です。