日本男子マラソン陣の明暗を分けそうな気温
大会2日目の夜の雷雨以来、何度か降った雨で徐々に秋めいてきたモスクワ。男子マラソンが行われる17日の天気予報も最高気温が22度となっている。太陽が出ればそれなりの暑さは感じるが、曇りだった15日はジャケットがないと寒いくらい。初日の女子マラソンとは条件が一変しそうな気配だ。 そんな中、日本陸連の宗猛・男子中長距離マラソン部張が「今回は5人とも調子がよくて、最終調整も予定通りのペースであがるという、珍しいくらいの状態」という日本勢。選手たちのほとんどはこの天候をみて5キロ15分程度でのレース展開を予想し、それに付いて行く覚悟はしている。 ただ本心では、ロンドン五輪6位の中本健太郎が「女子のレースもそうだったが、アフリカ勢は暑くなってタフなレースになると諦めてしまう人が多いから、日本勢としては過酷なレースになってくれた方がいい」と言うように、暑くなることを望んでいるのは正直なところ。そうなればスローペースからの一気のスパートで突き放されても、そこからの粘りでカバーし、消耗したり諦めたりして落ちてくる選手を拾いって入賞ラインまでいけるという目途もたつ。さらに女子のように、メダルに絡める可能性もでてくるからだ。 だが気温が20度前後だとすれば、順当に考えればトップ集団は5キロを15分強のペースでは行くはず。その中で前半は余力を残した走りをし、後半のスパートで突き放されてからの粘り切る力を残しておくかというのが、日本勢に求められるものになるだろう。 ただ今回からは、国別対抗のワールド杯が兼ねられておらず、マラソンも個人だけの戦いになっている。その場合、猛暑でないことを力にした体調にも自信のある選手の中には、最初から飛び出して早目にライバルを疲労させ、独走パターンに持って行こうともくろむ者も出てくる可能性もある。 そんなハイペースの展開になった時、日本勢で最初からついて行きそうなのは「アフリカ勢より暑さに弱い自分にとって、このレースは自分の今後を懸けるレース。比較的気温の低いモスクワで結果を出さなければ、15年の世界陸上北京大会も、16年のリオデジャネイロ五輪もあり得ないと考えている」と言って今大会に懸けている川内優輝のみになる可能性もある。彼自身、「14分40秒なら無理だけど、14分50秒くらいならついて行く。後半に一度は突き放されても、落ちてくる選手を拾って6位以内に入りたい」とも話しているからだ。 しかし、どんな展開になろうとも夏マラソンという条件を考えれば、優勝記録は2時間6分台より速くなるということはないだろう。宗猛部長もそれを想定し、「優勝が2時間6分台なら、入賞ラインは2時間9分台になるはず。先頭から2分半差くらいでは走って欲しい」と選手たちに期待をする。 各選手がその状況のなかでどんな展開を選ぼうとも、2時間9分台以内で走り切ろうとするビジョンを持って走るならば、目標の入賞は近づいてくるはず。 劣勢ともいえる日本男子選手に今求められるのは、自分の力と状態を的確に判断して周囲の惑わされず、いかにして冷静に走るかということだ。 (文責・折山淑美/スポーツライター)