「2兆ドルを削減する」イーロン・マスク氏があぶり出す米国政府のムダ遣いの数々 自身の事業環境をも左右する「DOGEの大改革」は実現するのか
DOGEトップの連名で11月20日、政府改革のためのDOGE計画と題した寄稿文をウォールストリートジャーナルに掲載しているが、公共放送や国際組織などに拠出する資金を減らすことで、すぐに5000億ドルの政府支出を削減できるとしている。 行財政改革を行うにあたり、官僚組織はもちろんだが、行政が簡素化されることにより収益機会の一部を失う軍事関連企業、公的機関を顧客に持つその他の企業、利権政治家から、既得権益層を主要顧客とするマスコミに至るまで、多くの組織が彼らに対して強い敵意を示すと予想される。そもそも、DOGEが議会で承認されてはじめて正式な組織となるが、そこから既に超えなければならないハードルが存在する。
行財政改革が実現すればマスク氏のビジネスに大きなメリット
行財政改革を指揮するイーロン・マスク氏は、もし、それが中途半端なものに終わり、既得権益側の政治力、経済力が温存されたとすれば、ビジネス環境が大幅に悪化しかねない。一方で、政治活動を行い成功した場合のメリットは計り知れない。 AIでは新会社「xAI」を設立、OpenAIの独占を打ち崩す姿勢を見せている。SpaceXを通じた航空宇宙産業、テスラを通じた新エネルギー、スマート自動車産業、Xを通じたSNS事業などを展開しているが、DOGEによる行財政改革が成功すれば、政府人員の削減とともに、多くの規制も削減、緩和されることになる。それは彼の事業環境を格段に良くするものと予想される。政府側に付くことにより人脈は広がり、信用度は高まり、資金調達力はさらに高まる。別の一面では、イノベーションが加速され、それが社会への大きな貢献となって有権者に還元されよう。利益相反を盾にイーロン・マスク氏の政治登用を阻止すれば、行財政改革を一気に進められるといった、またとない機会を逃すことになる。 日本では11月17日、兵庫県知事の出直し選挙が行われ、斎藤元彦知事の再選が決まったが、県内のPR会社が「公報全般を任された」とインターネット上に投稿したことで、公職選挙法違反の疑いがかかっている。もちろん、法律を遵守しなければならないのは当然だが、一方で、米国の大統領選挙、政治の在り方をみると、現在の日本の公職選挙法についてこのままでよいのかと考えさせられる。 有権者の便益の総和を最大化するような正しい政治を行うためには優秀でタフな人材を登用する必要があるが、そのような人材は苦労を上回る見返りがなければ政治に参加しない。だとすれば、カネと政治は切り離せない。 文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。