ロールス・ロイスのSUV 押し出し強く、乗り心地はすーっと「カリナン・シリーズⅡ」
「魔法のじゅうたん」の乗り心地
エフォートレスというのがロールス・ロイスが自社製品のモットーとして使う用語。クルマに乗っているとき、無理なく、たいていのことが出来る、という意味だ。ハンドルを動かす操舵(そうだ)は軽く、アクセルペダルを軽く踏み込めば力強く走り、ドアやトランクリッドの開閉もボタンで行える。 大型ボートがいつも引き合いに出されるのも、ロールス・ロイス車の特徴だ。デザインしかり、乗り味しかり。すーっと走り、すーっと曲がり、すーっと止まる。イビサのハイウェーでちょっと速度を上げてみたところ、同乗者から「え? いまそんな速度」と驚かれた。それぐらい、静かなのだ。 ロールス・ロイスがよく使う単語が「マジック・カーペットライド」。ふわりと走るという意味なので、空飛ぶじゅうたん、と私は訳していたら、魔法のじゅうたんでよいのでは、とドラクエ世代の知人から指摘された(意味わかりますか)。 それはともかく、カリナン・シリーズⅡのサスペンションシステムは、じっさい、路面の突き上げをていねいに吸収してくれる。車体の重さも乗り心地のよさに貢献。やっぱり、すーっとというかんじで、走っていけるのだった。 ロールス・ロイスのオーナーの若返りについて先に触れたが、もうひとつの立役者が「ブラックバッジ」。2016年にラインアップに設定されたスポーティー仕様だ。カリナンではシリーズⅠにも設定されていた。 イビサでも、ブラックバッジ・カリナン・シリーズⅡに乗るチャンスがあった。たしかに、標準モデルに対してよりしっかりしている印象だ。足まわりがすこし固められて、ハンドルを切ったときの操舵力も少々重め。一般的なクルマの操縦感覚からすると、ブラックバッジモデルのほうがしっくりくるかもしれない。 ロールス・ロイスは12気筒エンジンにこだわる。力がたっぷりあって、加速していくときに“品”のようなものを感じさせて、とてもよい。でも、このご時勢なので、気筒数を減らしてモーターでカバー、という可能性もあるのだろうか。 「ハイブリッド(を出す可能性)はないですね」。ロールス・ロイス本社でプロダクトスペシャリストとしてカリナン・シリーズⅡにかかわっているケンザ・サーディ氏は言う。「次はいっきにピュアEVになるでしょう」。 じっさい、この連載でも以前とりあげたとおり、スペクターというピュアEVがすでに走り出している。好むと好まざるとにかかわらず、新しい時代がそこまで来ているのだ。 目立つという点でも、カリナン・シリーズⅡはなかなか興味深い。英語だとアンダーステーテッド、控え目であることをよしとして、少なくとも外板色は目立たない色を選ぶオーナーがいる。いっぽうで、目立ちたいひとがいる。今回はそこにもしっかり目配りがされている。へー、ロールス・ロイスがねえと、私などは妙に感心してしまった。そんな仕様があるのだ。 日本での価格は、「カリナン・シリーズⅡ」が46,454,040円、「ブラックバッジ・カリナン・シリーズⅡ」が54,154,040円(ともに税込み)。たいていのユーザーは、内外装に特別注文を入れてくるそうで、そうなると、価格はさらに上がる。ぜいたくな世界は健在なのだ。 【スペックス】 Rolls-Royce Cullinan SeriesⅡ(Black Badge Cullinan SeriesⅡ) 全長×全幅×全長=5355×2000×1835mm ホイールベース:3295mm 車重:2725kg 6750ccV型12気筒 全輪駆動 最高出力:420kW(441kW)、最大トルク:850Nm(900Nm) 写真=Rolls-Royce Motor Cars ■著者プロフィール 小川フミオ モータージャーナリスト クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。
朝日新聞社