【内田雅也の追球】岡田顧問のやさしさ伝わる「長い目」 米では「ジャッジ・スローリー」
岡田彰布は元気だった。驚くほどに回復していた。前日8日、大阪・野田の阪神電鉄本社であった「オーナー付顧問」の就任会見。顔色もよく、やせていた体もふっくらしていた。 ちょうど1カ月前の10月8日、クライマックスシリーズ(CS)に向けた甲子園での練習中、関係者喫煙室で会ったのを思い出す。室内練習場から球場へ、数十メートルの移動も「階段の上り下りがきつい」と監督付が運転する車に乗っていた。 たばこに火をつけてせき込んだ。「息……息苦しいんや。寝られへんねん。昨日おとといは一睡もしてへん」。あれが最後の一服だったそうだ。 「ビールは苦くなったが、飯がうまいんよ。よく食べるし、呼吸も楽になったわ」。愛煙家が「全く吸いたいと思わん」と禁煙に成功していた。 岡田は大いに語った。顧問の助言としても示唆に富んでいた。監督・藤川球児もこの日、スポーツ紙で岡田語録を読み「うれしい」と話した。 なかでも監督の姿勢を諭す「慌てるな。長い目で見ろ」がいい。「判断するのはまだまだ先やから。その日その日の判断やなしに、長い目でな。3月の一番大事な時期にベストに持っていけばいい」。高知・安芸の秋季キャンプで行っている紅白戦も「意味はない」と忖度(そんたく)などない。 大リーグにも「ジャッジ・スローリー」という指導者やフロントに向けた警句がある。「ゆっくり判断せよ」である。 長嶋茂雄の著書『野球へのラブレター』(文春新書)で紹介されている。<野球は失敗のスポーツで悩みのスポーツだが、常に次の試合があり、来年がある。再挑戦の機会が巡ってくる。あきらめない限り、チャンスは与えられる>。 選手のよしあしを判断するには時間をかけるべきという教えだ。選手に失敗する機会、それを取り返す機会を与えながら、力量を判断していく。指導者にはそんな忍耐力が必要というわけだ。 大リーグの厳しい競争社会では冷徹な選手選別も日常茶飯事だろう。だからこその「スローリー」である。大リーグを経験した藤川も承知していよう。何しろ、前回監督就任の2003年オフ、戦力外だった藤川を残したのが岡田なのだ。 「長い目」は、おそらく岡田のやさしさも伝わる言葉として聞けたと思っている。=敬称略=(編集委員)