「グラディエーター」でラッセル・クロウの闘志をかきたてたひと握りの土
スポーツ映画につきものの「滑り止め」
「グラディエーター」の滑り止め描写を目にして、ふと「ほかにはどんなものがあったろう」と思いを巡らせた。たとえば、マ・ドンソクの腕相撲映画「ファイティン!」では、特に後半の大試合において選手たちの手のみならず腕まで粉まみれになっていたし、それ以外のスポーツ映画、とくに野球映画では多くの場合ピッチャーが投球前に滑り止めの粉が入った袋(「ロージンバッグ」という)を手元で弾ませる仕草が描かれる。 これらの粉は、基本的に炭酸マグネシウムの成分で滑りを防止しているという。炭酸マグネシウムは吸水性に優れ、発汗による滑りを防ぐというわけだ。上記の競技のほかにも鉄棒や重量挙げ、ロッククライミングなどでも目にすることがあるはずである。 そんなことをつれづれなるままに考えていたら、スポーツ映画以外にも該当作があることに思い至った。ジョン・ファブロー監督作「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」(2014年)がそれだ。しかも本作で登場する粉は、俗に「たんま」と呼ばれる炭酸マグネシウムではなく、とうもろこしから作られる「コーンスターチ」である。
コーンスターチは「スーッとする」
タイトルの通り、本作の舞台はフードトラック=移動屋台。だから主人公たちは、街から街へと移動することになるのだが、コーンスターチはそんなときに役立てられる。長時間の運転で蒸れたズボンの中(要は股間である)にパラパラとふりかけるのだ。効き目のほどはといえば、登場人物いわく「スーッとする」とのこと。 公開当時、そんな使い方があるのか!と衝撃を受けると同時に、なぜコーンスターチ?と感じたことを思い出し、いまさらながら調べてみると、どうやら至極まっとうな用法でもあるらしい。というのも、汗予防に用いられるベビーパウダーの主成分のひとつがコーンスターチであり、吸水性、発汗防止効果があるらしいのである。ならば、座り通しのズボンの中でも効果を発揮することだろう。 この連載は、できるかぎりかけ離れた2本を、ひとつの共通点で強引に結び付けてご紹介するというのが本来の趣旨なのだが、いざ並べてみると内容にも相似が見いだせたりしてしまうのが面白いところ。じつは「シェフ」も「グラディエーター」に通じる戦いの映画。一流レストランの料理長が、不本意に身を落とし、もう一度はい上がる話なのである。しかも、約2時間の上映時間のなかで、肝心のフードトラックが登場するのはちょうど半分過ぎたあたり。このシンプルな構成まで似ている。「グラディエーター」は、ほとんど食事らしい食事が出てきてくれない映画であるから、そのあとに見れば五臓六腑に(ごぞうろっぷ)しみ入ること間違いなしのフード映画として、心の底からおすすめしたい。
映画ライター 髙橋佑弥