三浦春馬さんの最初で最後のSOS 空羽ファティマ
韓国俳優イ・ソンギュンさんの死
海外で力を試したい彼に2013年、上海での映画撮影と、ソウル、台北に行く機会が訪れる。 「韓国は、日本より国土が小さいけれど、街や人々にとても熱を感じます。(略)韓国のミュージカルスターの実力には驚愕(きょうがく)したのを覚えています。(略)韓国の映画は好きですよ。シリアスなヒューマンドラマに出てみたい」 やはりそう思ってたのね? 年齢を重ね、私の好きな韓ドラNo.1の「マイ・ディア・ミスター」のおじさん……深い孤独と、重荷を背負うイ・ソンギュンさん演じるドンフンのような役がみたかった。 苦しんだ帯状疱疹からちょうど1年経つ2023年12月27日。衝撃のニュースに言葉を失った。イ・ソンギュンさんが、19時間の厳しい徹夜の取り調べの後、自死したというではないか。 彼は180cmの長身で演技力の高さ、紳士的な風貌、低音の美声で人気の俳優。春馬さんのように、穏やかで誠実な人柄のトップスターで好感度のあるタレントとしてCMにも数多く出演。2023年10月24日に麻薬容疑で起訴されたが本人は一貫して潔白を主張。国立科学捜査研究院で尿、頭髪、体毛などを複数回、精密鑑定した薬物検査の結果は、全て陰性。だが容疑はそのまま。 容疑の証拠はソウルの遊興店の麻薬常習犯で、3回の有罪判決を受けた女性の供述のみ。彼女はK-POPのG-DRAGONの麻薬使用も供述したが、作り話と判明。知り合いの詐欺犯の女性と脅迫・恐喝し計3億5000万ウォン(約3860万円)を奪い取る。払ったのが悪いと言われてもいるが、「韓国TVドラマ103号」に“ドンフンとの共通点”は「家長としての責任と家族の大切さ」と言っていた2人の息子のお父さんだから、一度イメージが落ちたら終わりという韓国の厳しい芸能界で愛する家族を守るために、どうしようもなく取った手段だったのではないか? 死の前日、捜査への不信を訴え“嘘発見器の導入”まで求める意見書を提出。 (文春オンライン1月12日参照) 連日のSNSの中傷と厳しい捜査を受け続けたら、潔白でもメンタルをやられるだろうし、自殺の多い国だし最悪の結果も予想できたはず。春馬さんもコロナ時に舞台を開けてかなり叩かれたよね。 (私のインスタ@coofatimaにも書いたが人それぞれいろんな意見があっていいが、説得したり責めたりする必要はなく、匿名のSNSで正義を振りかざし人を追い詰めるのは犯罪だ。 「一番好きな台詞は“なんてことない”」と言っていたのに“もうこうするしかない”と、遺書を遺して旅立った。それほどまでに「八方塞(ふさ)がり」に追い込まれ、一人寂しく消えていくしかなかったなんて) ……だが、「マイ・ディア・ミスター」の8話でエンジニアのドンフンが建物の設計に例えて「〈人生も外から加わる力とそれに対抗する内力の戦いで、内力が強ければ何事も耐えられる〉と言うセリフが印象的だった」と言ってたのを知ると……家族のために最大限の内力を使ったということか? “こうするしかない”とは、心が折れたゆえの死ではなく、死ぬことで“家族をこうして守るしかない”という家長の選択だったのか? 最期の場所を、家族が発見すると衝撃を与える自宅や、捜索に苦労する海中などではなく、遺体もきれいのままで、すぐ発見できるソウルの公的な駐車場で車の中で逝ったのは、彼の気配りだったのだろう。 私は〈エネルギーとしての“命”は死しても消えない〉と信じていたが、〈温かな体こそが、生きている証〉だと、思ってもいた。でも、春馬さんの記事を3年以上書いているうちに、人は体が無くても生きて大きな影響を世の中に与えられる人もいると思えてきた。私の人生のベストドラマは「マイ・ディア・ミスター」と「それでも、生きてゆく」で、深い豊かな愛と赦(ゆる)しと希望の物語だが、内容が重く気軽に観られるものではなく、特に16話ある韓ドラは私が熱く勧めても敷居が高く、すぐに観る人は限られていた。 が、彼が亡くなったという投稿をしたとたん、何人もの人が「おすすめの『マイ・ディア』、ついに見ます」と言い、その1人はこうメッセージをくれた。 〈ニュースを見て、真っ先にファティマさんの事を考えました。春馬さんを失った3年前の私と同じかもしれない、と。 当時はニュースやネットを見ても何もわからず毎日泣いた。『創』を知り、寄り添ってくださるファティマさんたちがいてくださる事だけでありがたかった事を私はずっと忘れません。私には、ファティマさんのような人を癒す力はなく、もどかしいけれど貴女の事を想っています。 ファティマさんに勧められなかったら見なかったけれどインスタでファティマさんが「一番好きなドラマ」って言うなら見てみよう!と「マイ・ディア・ミスター」と「それでも、生きてゆく」のDVDを買い特別大切なコーナーに揃えました。役者さんは作品の中でずっと生き続けると思うんです。 「ローマの休日」のヘップバーンも、「スタンド・バイ・ミー」のリヴァー・フェニックスも。春馬くんも。イ・ソンギュンさんも。次の世代の人にも見てもらいたい。そのために、まず私が見て繋いで行きますね。 今は平和な温かい場所にいらっしゃいますように。 ファティマさん、いっぱい泣いてさしあげてください〉 ……泣けた。ああ、彼は亡くなることで、その力を大きくしたのだ、と。その命は姿を変え、羽ばたくのだ。 ……私がお礼文を送ると〈心の赴くままにDVDを購入したことが、何よりもファティマさんに寄り添え、大切な方を幸せにできたことが、嬉しかった。なんか、自分自身を愛しく感じ、とても大切に思えました〉と、言われた。 ……自身を愛しく大切に思えた、の言葉がすごく嬉しい。自分が誰かに何かをしてもらったり褒められるよりも、感動した作品や、話した言葉や、書いた本で、その人自身を好きになってくれることこそが、嬉しい。 しかも、その中の3人K、Y、Mさんは帯状疱疹のときに助けてくれた方だったので、ドラマを勧めたことが恩返しのような気になった。