電子書籍は「出版権」創設で普及する? 著作権法を改正へ
2014年3月14日、政府は今まで紙の書籍にしか認めていなかった「電子出版権」を電子書籍にも広げる著作権法改正案を閣議決定しました。出版権とは、文書や書画などの著作物を独占的に出版することができる権利です。電子出版権という聞きなれない権利がどうして創設されようとしているのか。背景をみていきましょう。
出版社による海賊版差し止め請求が可能に
近年、デジタルコンテンツの普及に伴い、海賊版の電子書籍が横行しています。たとえば、単行本の海賊版をネット上で発見しても、従来は電子書籍の出版権が認められていなかったため、差し止めなどの請求訴訟を起こせるのは著作権者に限られていました。でも、出版権が認められることによって、著作権者と契約を締結している出版社が主体となって海賊版電子書籍発行者への差し止めなどを請求できるようになります。 今まで、こうした権利関係の法律が未整備であることは、電子書籍の普及を阻害して、海賊版が増えることの原因のひとつといわれてきました。電子書籍の出版権を認める改正法案が可決されれば、日本の電子書籍事情が一歩前進するといえるでしょう。
著作権者からは反対の声も
ところが、電子書籍の出版権を認めることに対しては、日本ペンクラブ(浅田次郎会長)など著作権者の側から反対の声が上がっていました。電子書籍に出版権を認めることが「ネット空間における言論表現の自由のあり方を揺るがしかねず、既存の紙メディアにおける出版行為にも重篤な影響を及ぼす」というのです。
電子書籍ビジネスはまだまだ成長途上にあります。紙の書籍を発行する出版社が、必ずしも電子書籍化や、販売するプラットフォームを広げることに前向きであるとは限りません。著作権者としては、自分の判断で電子書籍を販売する「自由」を妨げられるのではないかという懸念があるのです。 たとえば作家の村上龍さんは早くから積極的に電子書籍の「自主発信」に取り組んでいます。自ら『村上龍電子本製作所』というサイトと新会社を立ち上げ、2010年に発表した『歌うクジラ』は、紙の本よりも先に電子書籍として発行されました。これからますます電子書籍を読むためのタブレットなどの端末が普及していくことで、作家と出版社の関係が変容する可能性を示すチャレンジのひとつです。