薬物依存症の母との40年にわたる闘い 医師のおおたわ史絵さん、苦しくても「その親しかいない」#令和の親 #令和の子
それでも幸せを感じられる日がくる
――2020年に単行本『母を捨てるということ』を発売し、大きな反響があったそうですね。 おおたわ: 驚きました。薬物依存というテーマは多くの人にとって遠い世界の話のはずなのに、本を発売してから「あたかも母と私を見ているような思いで読みました」といった声をたくさんいただいたのです。 状況は違っても、親子関係に複雑な思いを抱えて生きている人がこれほど多いのだと、切実に感じました。よその家庭は、どこも幸せそうに見えるもの。でも実は、さまざまな葛藤が隠れているのでしょうね。 ――今「母と娘」の関係で苦しんでいる人たちにメッセージをいただけますか? おおたわ: どうすれば良かったのか、何が正解だったのか、私は今でもわからないのです。だから「こうすれば解決できますよ」といったアドバイスはできません。 今でも、母の夢を見ることがありますよ。多分、何かが解決したり、乗り越えたりしたわけではないんですよね。それでも母とのことが落ち着いてからは、「ああ、今、そこそこ幸せだな」と思える瞬間が、私にはあります。「ご飯がおいしいな」「花が咲いて、綺麗だな」「犬と散歩できて、幸せだな」。そんな幸せを、最近しみじみと感じるのです。 だから、今は苦しみの中にいても、たとえ問題がすっきり解決しなくても、何でもない幸せを感じられる日は必ず来る。そのことを、どうか信じてほしいですね。 ※この記事は、telling,とYahoo!ニュースによる共同連携企画です。
●おおたわ史絵(おおたわ・ふみえ)さんのプロフィール 総合内科専門医、法務省矯正局医師。東京女子医科大学卒業。大学病院、救命救急センター、地域開業医を経て2018年より現職。刑務所受刑者たちの診療に携わる、数少ない日本のプリズンドクター。テレビ出演や講演活動も行う。
文:塚田智恵美