【消えていった日本三大美林】収入確保が招く貴重な森林の伐採、国有林事業の教訓
皆伐後の更新はここでもヒノキの植栽が一般的なのだが、御嶽山周辺は木曽五木の適地であって、落下した種から育った天然更新木をよく見かける。この適性を活かして、木曽ヒノキの天然林を更新・持続していこうとする方法について戦前から実験が繰り返されてきた。中には400ヘクタール(ha)を超える大規模な実験林もあるのだが、いまだ完全な実用化には至っていない。 写真5、6の赤沢国有林のように比較的うまくいっているところもあるが、岐阜県境に近い標高の高いところでは、皆伐地が一面ササに覆われてしまって、稚樹が頭を出すのが難しい個所もある。皆伐する前に除草剤でササを枯らしてから、種子の供給源である母樹を残して皆伐する方法も実験されているが、そもそもそんな奥地で皆伐するのが適切とも思えないし、除草剤の使用も危惧される(写真7)。 写真7の手前のようなササ地の中にはヒノキ稚樹が隠れている。遠景の赤茶色になったところが、ササを刈った個所。周囲には高齢のヒノキ林が残っているから、更新が成功すれば、このような森林に回帰するはずである。 また、択伐林(一部の木を選んで伐採された林)のように残存木が多すぎると林床が暗く、耐陰性の強いアスナロの稚樹ばかりになってしまうこともある。これはこれで、自然なのだがヒノキの更新を目的とするならアスナロを刈り出す必要がある。 木曽ヒノキと言ってもこれだけ広い地域にまたがっていて、その全体にわたって同じ環境条件であるはずがない。同じ林班(森林を字界や尾根、谷等の天然地形で区画したもの)や小班(同一の林班において、森林所有者、樹種、林齢、作業上の取り扱いなどで細分される区画)であっても尾根筋から沢筋まで同一条件であるはずもなく、それは現在の林相(森林の外観)や林床(森林の地表面)の状態が教えてくれる。 すべてにわたって万能な更新方法などあろうはずもない。きめ細かに観察して個所に応じた更新方法を選択するほか、経過観察を怠らず変化に柔軟に対応する必要がある。 これが森林官(フォレスター)の本来の役目である。現状のように事業の実施事務をこなすのが精一杯で、現場に足を向ける余裕がないのでは、国有林の将来はない。