石破首相が掲げた勝敗ライン「与党過半数」は実現可能か、衆院選後のシナリオを整理する
■ 蓋然性が低い「自民党単独過半数」シナリオ <勝敗ラインは?> 永田町では、勝敗ラインとして「自民単独過半数」および「与党過半数」の2つが注目されている。 石破首相は勝敗ラインを「与党過半数」に設定している。安倍政権や岸田政権でも、当時の幹部は「与党過半数」を勝敗ラインに設定したが、緩い基準と目された。だが、今回の衆院選については、「与党過半数」を実際にクリアできるか否かが重要な勝敗ラインとなっている。 新聞各紙による衆院選の情勢調査は、中盤頃まで「与党過半数維持、自民単独過半数割れ」というのが大体のコンセンサスだった。だが、終盤に入り、与党の苦戦が伝えられている。 朝日新聞は10月19~20日に実施した情勢調査で「自公過半数、微妙な情勢」と報じた。共同通信も10月20~21日に実施の情勢調査で「与党過半数は微妙」と報じている。産経新聞・FNNによる10月19~20日実施の情勢調査では「与党過半数割れも」とのことだ。 2021年衆院選、2022年参院選では、朝日新聞の情勢調査が相対的に強めだったが、開票結果に近い数値となったため、今回も注目されているようだ。無論、各社が調査手法改善を試みており、実際の結果は蓋を開けてみなければ分からない。 なお、近年は投開票当日20時発表の出口調査を基にした議席予想が外れるという現象がみられる点に注意する必要がある。 ともあれ、新聞各紙による衆院選の情勢調査に基づいて記述すれば、現時点では「与党過半数」がメインシナリオに、「与党過半数割れ」がサブシナリオに位置づけられる状況だろう。「自民単独過半数」の蓋然性が低いシナリオと言える。
■ 多数派工作のタイムリミット <与党過半数割れの場合はどうなるか?> 「与党過半数割れ」となった場合、政権は不安定化する可能性が高いだろう。 石破首相が「与党過半数」を勝敗ラインに掲げているため、責任を取ってただちに退陣を選択する可能性が考えられる一方、石破首相が政権継続を目指して衆院での多数派工作を選択する可能性もある。どちらを選択するか、衆院選結果や党内情勢、そして石破首相の決断次第であり、現時点で予想は難しい。 石破首相が多数派工作を図るとしても、日程的な制約がある。 憲法第54条第1項は、衆議院議員総選挙の日から30日以内、今回で言えば11月26日までに、特別国会を召集しなければならない、と定める。召集とともに内閣が総辞職し、衆参両院において首班指名が行われ、衆参両院で過半数を得た者が内閣総理大臣に指名される。両院における首班指名が異なる場合は、衆院の議決が参院に優先する。 政権継続のために、石破首相は特別国会召集に間に合うように衆院で与党過半数を確保せねばならない。ただ、召集ぎりぎりまで多数派工作の時間的余裕があるわけではない。多数派工作に失敗して退陣する場合、自民党総裁選を実施する期間を考慮せねばならないためだ。 先般実施されたような総裁公選では12日以上の選挙期間を要するが、臨時の総裁選であれば短期間で実施可能だ。例えば、菅氏が総裁に選ばれた2020年の総裁選の選挙期間は、9月8日に告示、9月14日に投開票の6日間だった。逆算すれば、多数派工作を選択するとしても、11月初頭頃がタイムリミットになるのではないか。 <多数派工作の選択肢は?> 石破首相が多数派工作を図る場合、まず考えられるのは、非公認により無所属で出馬した後に当選した議員を追加公認する、もしくは自民党会派に引き入れることだ。ただ、非公認となった議員が石破政権の維持に協力するかは不透明だ。 もう一つ考えられるのは、連立政権に国民民主党もしくは日本維新の会を引き入れること、もしくは部分的な協力を仰ぐ選択肢だ。こうした多数派工作の成功により、石破政権は継続する可能性はある。 一方、ただちに退陣、もしくは多数派工作に失敗して退陣の場合、臨時の総裁選が実施される。自民党の党則に基づけば、臨時の総裁選は、衆参両院議員および都道府県支部連合会代表各3名の投票により実施される。 衆院選の結果は、経済政策にどのような影響を与えるであろうか。2つの勝敗ラインに基づき、3パターンで整理してみる。