ラグビーW杯代表戦士が異色ビジネス挑戦 「おもしろレンタカーで…」通念にとらわれない奔放な発想
ラグビー・山田章仁インタビュー後編 ピッチ内外で見せる変幻自在のステップ
ラグビーの「NTTリーグワン2024-25」開幕を前にした、39歳のWTB山田章仁(九州電力キューデンヴォルテクス)へのインタビュー。後編は、移籍3シーズン目のチーム、リーグワン、そして日本ラグビーについて話を聞いた。ビジネスでも新たな挑戦を進めるなど、ピッチ内外で山田らしい変幻自在のステップを見せる。(取材・文=吉田 宏) ◇ ◇ ◇ グローカルな視点を持って故郷・九州に戻って3シーズン目。挑戦の場となった九州KVを、山田は独自な視点で見つめている。 「いい形で運営されていると思います。日本が世界に示していく形としては一番価値があると思うんです。上位チームがプロ化を進めているのは、それはそれでいい。そしてグローバルな目線でみれば無くなっていくチームもあるかも知れない。でも、ここまで日本がやってきたスタイルじゃないですか。九州KVって。九州電力という企業の中で、ラグビーは今でもカンパニースポーツです。今はプロ契約選手も10人ほどいますが、社内でのチームの価値、そして選手たち自身の価値もしっかりあるんです。今は多くのチームがお金を使って外国人を入れていく中で、どのチームも同じようなラグビーをしている。そんな状況の中で、九州KVは従来の企業スポーツという枠組みの中で、組織として、チームとして強化に取り組んでいる。プレー面ではしっかりと体を張るとか、ラグビーの根底にある部分は譲らずやってきた。自分たちのやり方で皆が強くなろう、いい組織になろうとしているチームですね」 山田の話を聞きながら頷けるのは、発足4シーズン目のリーグワン周辺でプロ化、事業化という言葉が飛び交う中で、いまだに日本のラグビーの大きな基盤は名立たる企業が保有する企業スポーツとしてのラグビーチームだという現実だ。大学卒業後はプロラグビー選手として自分の道を切り開いてきた山田だが、その一方で2022年に発足したリーグワンは、御旗として掲げるプロ化という方向へは加速度を上げられていない。将来、1つの親会社だけに依存しないチーム運営を理想としてリーグが誕生したが、現実を見れば、明日企業スポーツという基盤が根こそぎ失われるようなことが起きれば、チームやリーグ自体の存続も危うくなるような構造はそう容易く改革できない。このような状況下で、山田は企業チームという形態の中で独自性を培ってきた九州KVというチームの存在価値を感じている。その背景には“ラグビー処”である地元・九州でのラグビー活性化という願いもある。 「日本代表の中でも九州出身の選手は多いでしょ。大袈裟に言うと、彼らが代表を支えている。九州で生まれ育ち、指導、教育を受けて切磋琢磨してきた。そういう選手が代表で活躍することを、皆うっすらとは感じているはずです。僕がこうして九州に戻ってきているので、そういう九州のラグビーの価値をどんどん話していこうかなと思うんです。美味しいレストランにはお客さんが集まるように、いいチームに人が集まる。強豪チームに行った方が代表になれたり海外に行けたりするかも知れないけれど、九州KVの中から日本代表選手も出て欲しい。代表を経験することで、それを還元してチームは飛躍的に成長出来るはずだし、このチームでも代表を目指せることを示したい」 そして山田の“帰還”は、九州のため、自分自身が育ったコミュニティーのためだけではない。家族のことを踏まえた判断でもある。山田は2015年にアメリカ出身でモデルのローラさんと結婚して、4児の親でもある。妻の家族が米国本土、そしてハワイに居住することもあり日米を往復するような生活も続けているが、九州KV移籍を期に長らく日本で暮らしてきた首都圏から家族全員で福岡へ移り住んでいる。 「すこし前に夏だけアメリカに行っていたんです。アイオワの(夫人の)実家に帰ったんです。トレーニングはどこでも出来るんですけど、子供にルーツを見て欲しかった。今、家族で九州に住んでいるのも、僕が生まれ育った町を感じて欲しかったから。上の2人は8歳になる。日本の教育は小学1年生から本格的かな? ボーダーレスに生きてもらいたいんですけど、ハワイの学校に通っていた時は向こうの良さもあったけれど、僕が学んできたことを一番シェア出来るのはこっちだから。学校教育だけみると日本は窮屈ですけれど、両方経験することで、そういった窮屈さも判るし、国境に関係なく実際にそこに行って良さ悪さを感じてもらいたい」