尹大統領、事実上職務排除? 「現行法上可能」vs「憲法破壊」
韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領に対する国会弾劾訴追案が否決された翌日である8日、与野党が「事実上の大統領職務排除」が可能かどうかを巡ってぶつかった。与党「国民の力」の韓東勲(ハン・ドンフン)代表が7日、弾劾案廃棄直後「大統領は退陣時まで事実上職務から排除される」と明らかにすると、共に民主党が「憲法無視」として反発しながらだ。法曹界も大統領職を維持した中で「事実上職務排除」が可能かどうかを巡って意見が入り乱れている。 韓代表は弾劾案否決翌日の8日午前にも韓悳洙(ハン・ドクス)首相と会合後、「秩序のある大統領の早期退陣で混乱を最小化する」とし「尹大統領は国政に関与しない」と再度強調した。韓首相も「私を含むすべての国務委員は与党と共に国家機能を安定的に運営する」と明らかにした。 このような政府・与党の発表に国会の首長である禹元植(ウ・ウォンシク)国会議長は8日、「国民の主権と憲法を無視する非常に傲慢なやり方」としながら「大統領の権限を首相と与党が共同行使するというのは明白な違憲」と明らかにした。共に民主党も「12・3内乱犯罪の延長であり、もう一つの内乱」〔趙承來(チョ・スンレ)首席報道官〕、「いかなる法的根拠も供えていない国政掌握企図」〔韓玟洙(ハン・ミンス)報道官)と反発した。 ◇大統領-責任首相並立…「憲法上『欠位または事故』条件不成立」 韓首相と韓代表の主張は、大統領をそのまま置くものの「尹大統領が残りの任期の間、正常な国政運営をすることができないため」(韓代表)、退陣時までその権限を停止させて他人に委任するという意味だとみられる。憲法は「大統領が欠位あるいは事故によって職務を実行できない場合は、首相あるいは法律が定めた国務委員の順序でその権限を代行する」(第77条)と規定している。 だが、法曹界では憲法上権限代行条件である「大統領の欠位」または「事故」が現時点では適用されるのは難しいという分析が出ている。大統領の欠位というのは、死亡・辞任(下野)・罷免(憲法裁判所の弾劾案認容)など職位が空席になった場合を意味するため、今は明確に異なる。慣習法的概念である「事故」には、通常病気・行方不明・拘束などが含まれるが、大統領は失踪することも逮捕されることもなかった。弾劾訴追案が可決された場合には「弾劾訴追が議決された時にはその権限行使が停止する」(憲法第65条2項)という別途の規定がある。 これについて憲法第77条とは別に責任首相制度の運用が議論されているが、これも賛否論争が大きな事案だ。責任首相制度は、憲法に保障された国務委員の提案権や閣僚解任建議権などを首相が実質的に行使できるようにする制度だ。金泳三(キム・ヨンサム)政府の李会昌(イ・フェチャン)首相や盧武鉉(ノ・ムヒョン)政府の李海瓚(イ・ヘチャン)首相など一部先例もあるが、大統領職務が排除される責任首相制度が実現されたことはない。 法曹界の一部では「現行憲法でも運用が可能だ」という意見もある。高麗(コリョ)大学ロースクールのチャ・ジナ教授は「首相は大統領を補佐し、行政に関して大統領の命を受けて行政各部を統轄する」(第86条2項)など憲法条項を根拠に「首相が一定の事案に責任を取って決定するようにし、大統領は形式的に承認する形で運用すれば制度実行が可能だ」とし「これを主張した憲法学の研究と論文が多い」と話した。 高麗大学ロースクールのチャン・ヨンス教授も条件付きで可能だという意見を出した。チャン教授は「韓代表と韓首相が大統領を第2線に退かせるのは不可能」としつつも「大統領本人が『党に一任する』(7日国民向け談話)と話したことから首相に権限を与えることができる」と判断した。 反面、ソウル市立大学ロースクールのキム・デファン教授は「憲法は国民によって選出された大統領に強大な権力を付与している」とし「そうした権力を大統領ではない人間が行使するのは憲法違反であり国政壟断」と話した。韓代表と韓首相が大統領の権限委任を主導することに対しても「もう一つの憲法破壊的謀議」とし「どこを見ても、大統領に給料を与えながら職を保全し、何の権限もない人間に国政を主導させるようにはしていない」と強調した。 建国(コングク)大学ロースクールの韓尚熙(ハン・サンヒ)教授も「大統領が法的根拠や公式的な手続きもなく権限を与えれば、今後国家的事故の責任を誰が負うのかという問題になる」とし「米国の立場でも、交渉の対象者が大統領なのか首相なのか分からない相当不安な状態になる」と話した。続いて「首相に権限を渡すのであれば、有故(特別な事情がある)宣言を先にしなければならない」と付け加えた。 ◇内乱罪拘束は「事故」、首相権限代行…資格喪失時は60日内に大統領選挙 もし尹大統領が金龍顯(キム・ヨンヒョン)前国防部長官のように逮捕・拘束される場合には「憲法第71条上『事故によって職務を実行できない場合』と見て権限代行体制へ渡るのが憲法システム」(ノ・ヒボム弁護士)という分析がある。ただし、一部では「逮捕・拘束されてもすぐに職務停止と解釈する明確な規定がない。拘置所で職務を遂行する可能性を排除することはできない」(韓尚熙教授)という主張もある。 検察非常戒厳特別捜査本部は8日、記者会見で尹大統領が手続き上被疑者として立件されたと明らかにした。尹大統領が今後内乱罪で拘束起訴された後、裁判所で資格喪失刑の確定を受けるか、その過程で国会弾劾訴追案可決後に罷免、辞任などの可能性がある。このすべての場合は大統領欠位に該当し、憲法第68条2項により60日以内に後任者を選出しなければならない。