【ライブレポート】羊文学ツアー最終日。最新シングル「more than words」を含め、メジャーデビュー以降の活動を網羅するような圧巻のステージを振り返る
■キャリアハイを更新し続ける飛躍を果たした羊文学 シングル「more than words」(TVアニメ『呪術廻戦』「渋谷事変」エンディングテーマ)のヒット、メジャー3rdアルバム『12 hugs (like butterflies)』のリリース、そして、2024年4月に行われた横浜アリーナでの単独公演。去年から今年にかけて羊文学はキャリアハイを更新し続ける飛躍を果たした。 【画像】羊文学 TOUR 2024 "soft soul, prickly eyes"より 今年5月にドラマーのフクダヒロアが当面の間休養することを発表した羊文学は、サポートドラムを入れてライブを継続。8月から10月にかけて自身最大規模の全国ツアー『羊文学 TOUR 2024 \"soft soul, prickly eyes\"』を開催した。追加公演の東京ガーデンシアター公演でも、メジャーデビュー以降の活動を網羅するような圧巻のステージを見せつけた。 ■幕に映し出される映像とともに、羊文学の音楽世界に観客を引き込んでいく 薄い幕がかけられたステージに、塩塚モエカ(Vo,Gt)、河西ゆりか(Ba)、サポートドラムのユナ(ex.CHAI)が登場。1曲目に選ばれたのは、「金色」。穏やかに響くバンドサウンド、強さと気だるさを併せ持ったボーカル、“でも少し、あと少しの安心が欲しい”というフレーズが広がっていく。さらにポストパンク的な手触りのアッパーチューン「電波の街」、「風になれ」(映画『そばかす』主題歌/三浦透子への提供曲のセルフカバー)、最新アルバム『12 hugs (like butterflies)』の収録曲「深呼吸」を披露。幕に映し出される映像とともに、自らの音楽世界に観客を引き込んでいった。 「皆さん、ようこそ。こんばんは」(塩塚)というゆったりとした挨拶から最初のMC。 「皆さん、見えてる?こっちからは50%くらいかな(笑)。このセットリスト、あっという間だと思うので。立ちたいなと思えば立てばいいし、座りたいなと思えば座ればいいし、人に見られて“怖い”とか“恥ずかしい”というのは忘れて。今日は私たちと、あなたたち一人ひとりで楽しんでいけたらいいなと思っています」 ■「あいまいでいいよ」での塩塚、河西のコーラスが美しい! 今回のツアー、そして、この日のライブに対するテンション感を穏やかな口調で伝えたあとは、メジャーデビュー以降の3作のアルバムからセレクトされた楽曲が演奏された。鋭利な疾走感に貫かれたサウンドが炸裂する「countdown」、グランジロックを想起させるギターリフとエフェクトされた歌声が印象的な「Girls」、切なくも美しい喪失感を描き出す歌に惹きつけられた「人魚」。白い羽を想起させるライティングとともに放たれた「光るとき」ではステージにかけられた幕が開き、会場から大きな歓声と拍手が沸き起こった。さらに軽快なバンドグルーヴと人間の存在の曖昧さを肯定する歌が共鳴する「あいまいでいいよ」(塩塚、河西のコーラスが美しい!)、そして、「永遠のブルー」のエンディングでは塩塚が轟音ギターを炸裂させ、オーディエンスの高揚感を引き上げた。シューゲイズ、オルタナ、ドリームポップなどを取り入れ、独自の音楽性へと昇華するスタイルはさらに進化。以前から定評のある音響の良さも精度を増し、バンド全体のダイナミズム、それぞれの演奏のニュアンスを高い解像度で体感することができた。 ライブの折り返しになるMCは、塩塚、河西がドラムセットの端に座り、ゆっくりとトーク。緊張感に溢れた演奏とのギャップも楽しい。 ■バンド以外の楽器を音源に初めて入れたという「tears」では、チェロ奏者の林田順平が登場 ここからライブは後半へ。「tears」(映画『かくしごと』主題歌)ではレコーディングにも参加したチェロ奏者の林田順平が登場(羊文学がチェロを音源に入れたのは、この曲が初めてだという)。クラシカルなチェロの響きが“置いてきたものの先で / 生きている今がある”という無常な歌詞の世界を際立たせる。このアレンジは明らかに羊文学の新機軸だ。 「tears」がもたらした静寂から一転、躍動感に溢れたバンドグルーヴに溢れた「honestly」によってライブはダイナミックに動き始める。オイルアート的な映像と“浅い眠りの海の中 / 全部逃してしまったよ”という歌詞が溶け合う「つづく」、抑制から解放へと向かうサウンドが心地いい「祈り」、そして、曲名通りの爆発力を感じさせた「Burning」(TVアニメ『【推しの子】』第2期エンディング主題歌)。観客ひとりひとりが自由に音楽を楽しみ(手を挙げたり、身体を揺らしたり)、曲が終わった後の歓声が少しずつ大きくなっていく様子も心に残った。 ■「OOPARTS」歌詞は、リリースから2年経った現在のほうがさらにシリアスに響く ライブ後半で個人的にもっとも印象的だったのは、「OOPARTS」だった。“この星自体がオーパーツ(場違いな遺物)になってしまうのでは?”という想像を込めた歌詞は、リリースから2年経った現在のほうがさらにシリアスに響く。長めのアウトロにおける、激しく歪んだ音をぶつけ合うような演奏も楽曲の意味合いをさらに強めていたと思う。 ステージの床に置かれた6つのミラーボールが放つオレンジ色の光のともに演奏された「more than words」の後、塩塚は観客に向かって話しかけた。ステージに架けた幕は、メンタルを守る幕という意味合いがあったこと。ツアーを通して元気になってきて、音楽でやりたいことも見つかったこと──。 「みんなとの距離も近くなれたなって。温かい気持ちにさせてもらいました。来てくれて、いつも応援してくれてありがとうございます」という言葉に対し、客席から大きな拍手が送られた。 ■「Addiction」の爆音と儚いメロディが渦巻くなか、ライブは幕を閉じた 「私たちがすっきり終わりたいがためにアンコールはやりません。残り3曲、力いっぱい演奏して、またクリスマスにお会いしましょう」と宣言し、まずは「くだらない」を披露。さらにインディーズ時代の楽曲「涙の行方」では手拍子とシンガロングが巻き起こり、心地よい一体感へつながった。最後はノイジーかつキャッチーな音像が広がるアッパーチューン「Addiction」。爆音と儚いメロディが渦巻くなか、ライブは幕を閉じた。 12月14日にアメリカ・ハワイでワンマンライブを開催。年末恒例の『まほうがつかえる2024』を12月10日(東京・LINE CUBE SHIBUYA)、24日(大阪・フェスティバルホール)に行うことも発表された。迷いながら、揺らぎながら、すべてを音楽へと結びつけていく羊文学。この先の3人の行き先は何処か、そして、そこでどんな楽曲が鳴らされるのか。次のアクションにもぜひ注視してほしいと思う。 TEXT BY 森朋之 PHOTO BY Daiki Miura 羊文学 TOUR 2024 \"soft soul, prickly eyes\" 2024年10月3日 東京ガーデンシアター セットリスト 1.金色 2.電波の街 3.風になれ 4.深呼吸 5.countdown 6.Girls 7.人魚 8.光るとき 9.あいまいでいいよ 10.永遠のブルー 11.tears 12.honestly 13.つづく 14.祈り 15.Burning 16.OOPARTS 17.more than words 18.くだらない 19.涙の行方 20.Addiction ライブ情報 『まほうがつかえる2024』 12月10日(東京都)LINE CUBE SHIBUYA 12月24日(大阪府)フェスティバルホール
THE FIRST TIMES編集部