米大統領選に「異変」、民主党の牙城「労働組合」で強まるトランプ支持…トヨタなど日本企業には逆風
<アメリカで強い政治力を持ってきた労働組合に地殻変動が。自国第一主義になびき、共和党との距離がかつてないほど縮まっている>【加谷珪一(経済評論家)】
トランプ前大統領の暗殺未遂事件やバイデン大統領の選挙戦撤退などを受けて、トランプ氏が大統領に返り咲く可能性が高まっている。こうしたなか、アメリカ政界の水面下では驚くべき事態が進行している。 【写真特集】女優から受付嬢まで、トランプの性スキャンダルを告発した美女たち 従来、民主党の牙城と思われていた労働組合に地殻変動が発生しており、トランプ支持を検討する組合が増加。民主党支持の組合も、保守的傾向を強めており、トヨタ自動車などアメリカ市場でビジネスを行ってきた外資系企業には逆風が吹き始めている。 アメリカ最大規模の労働組合「全米トラック運転手組合(通称チームスターズ)」のショーン・オブライエン会長は、7月に行われた共和党全国大会に出席。候補者指名を受けたトランプ氏に対して最大限の賛辞を贈った。 トランプ氏は外国製品の輸入に高関税をかけることを公約に掲げており、副大統領候補のバンス氏は、グローバル主義の象徴とされる巨大テクノロジー企業の解体を主張するなど、自国第一主義を前面に打ち出して選挙戦に臨んでいる。 同組合はトラック運転手を中心に全米で130万人もの組合員を抱えており、選挙戦への影響は絶大だ。最終的にはどの候補者も指名しないという選択を行う可能性もあるが、ここまで共和党との距離が縮まったのは前代未聞といえる。 ■労働組合とトランプ氏には利害が一致する部分が 企業寄りの政党である共和党と労働組合は利害が一致しないことが多く、両者の親和性は高くなかった。多くの組合は民主党支持であり、民主党にとっても組合は最大の支持基盤の1つとなってきた。だが近年は、グローバリゼーションを否定し、自国の利益を守るという点で労働組合とトランプ氏には利害が一致する部分が増えている。 もっとも、似たような動きは民主党内でも活発になっている。アメリカ最強労組の1つである全米自動車労働組合(UAW)は、基本的に民主党支持だが、これまで組合が存在しなかったトヨタなど外資系企業にも組合を拡大させることについてバイデン政権と合意している。 実際、多くの外資系企業で組合設立の動きが活発になっており、この動きが全米に拡大した場合、組合がないことで賃金を安く抑えてきた日本メーカーにとって大打撃となる。 1960年代、チームスターズは絶大な政治力を持ち、組合員から集めた年金運用資金をラスベガスのカジノに融資するなどマフィアとの癒着すら指摘されたことがある。UAWも時に激しいストを行うことで知られており、アメリカ国内では労働組合に対して怖いというイメージを持つ人が少なからず存在している。 ■自国第一主義はアメリカ社会の大きな潮流に ワシントンにおいて労働組合というのは、最も強硬な政治集団の1つであり、グローバリゼーションの行きすぎが指摘されるなか、その政治力が外国企業排除という方向に収れんしている様子がうかがえる。自国第一主義はトランプ氏個人のお家芸ではなく、保守・リベラルを問わない、アメリカ社会の大きな潮流になっていると理解したほうがよいだろう。 一連の動きは、アメリカでビジネスを行ってきた日本などの国にとって極めて深刻な事態といえる。自国中心主義を掲げ、国家権力によって外資系企業を排除して自国労働者の権利を保護するというのは、ある種の社会主義的政策であり、アメリカ社会の大きな変質を示唆している。