《遺言の書き方》から《詐欺企業の就職説明会》まで…「僕が捨てたらこの世からなくなっちゃうんじゃないか」ビデオテープ蒐集家が「2025年問題」を前にして訴えたいこと
店長のキャラクターが面白かった
「『TSUTAYA』などの大型店は豊富な品揃えのなかから選ぶ楽しさがありましたけど、個人店や小型店は店長のキャラクターが面白かったですね。店長の好みでおすすめ作品をチョイスしているのもありますけど、店長自体がすごく個性的なんですよ。そんなに話したりはしないんですけど、店長のキャラが好きで通っていたところがありますね。 【写真】これマジで全部レゴなのか…!? 超精巧な「レゴガンダム」の数々 前編<コレクションは3000本!「DVDに変わった時に『世の中からなくなってしまう』と激しいショックを受けた」…今でもビデオテープにこだわり続けるコレクターの《VHS愛》>より続く。 何年か前に行った店舗なんて、忙しいから帰ってくれって追い出されそうになりましたからね。見たら裏の方でフライパンで干物みたいの焼いてるんですよ。それでも話してみたら、中古ビデオを狙ってるハイエナみたいな客とか、廃墟巡りの気分で来る客がいて、気分が悪いと言うんですね。 2006年くらいに、よく通っていた近所のビデオ屋が閉店した時は寂しかったです。イタリヤ料理屋さんを改装した店舗で、サーファー風の日焼けしたワイルドな店長だったんですけど、ある日行ったら店長がいなくて、その親父さんだという高齢の男性がいて、『店を閉めるんで閉店セールやってます』というんで、涙ながらに50本くらいビデオを買った記憶があります。 別のアダルトビデオの店では、昼過ぎに店に行ったら、明らかに店長がお酒を飲んで酔っ払ってるんです。張り紙を見たら2本目から500円引きというよくわからないシステムで、10本くらい買ったら店長が計算できなくて、店を出てから、『一本ぶん多く取っちゃいました』って店長が追いかけてきたことがありました。そんな個性的な店長さんたちもいまどうしているかわからないので、懐かしいですね。
ビデオテープは劣化するとどうなるか
3000本くらいビデオを持っているので、自慢の珍品はいろいろありますね。たとえば、3巻セットの遺言ビデオ。弁護士事務所が制作した遺言の書き方のビデオなんですけど、おじいさんが飲み屋の女性に入れあげて、マンションをあげるって遺言を書くという再現ドラマがいい味出してるんです。 ほかにも2002年に詐欺などで逮捕されたジー・オーグループの大神源太の就職説明会のビデオとか、サイババのビデオとか、いろんなのがありますね。国会図書館にもどこにもない。僕が捨てたらこの世からなくなっちゃうんじゃないかと思うビデオが結構あります。 ビデオテープはあんまり劣化すると、最悪テープが切れてしまうんです。デッキのなかでギュルギュルギュルって変な音がして、機械がテープを噛んでぐちゃぐちゃになってしまうんです。あの音を聞くと心臓が縮み上がりますね。そうなったら機械の上ぶたを外して取り出さなければならないんで、大変ですね。 ビデオデッキももう生産してないから、中古でしか手に入らないです。それに磁気テープ自体が、2025年問題といって、来年ぐらいに一気に劣化して見ることができなくなるのではないかと言われてます。 テープにカビが生えたVHSも多くなっています。白カビが生えて、磁気がはがれたり、テープがくっついてしまうんです。そうすると見ることができなくなりますね。 DVDとかブルーレイは興味なくてあんまり持ってないんです。やっぱりVHSなんですね。もし結婚して奥さんからビデオを捨てろと言われたら、奥さんよりもビデオを選びます(笑)。自分が死んだらこのコレクションはどうなるか? それは考えないことにしています。
VHSには人生が込められている
リサイクルショップに行ってビデオがたくさん売られているのを見ると、ああ、これは持ち主が亡くなったなって直感的に分かることがあるんですね。明らかにひとりの人が持っていたコレクションだというのがなんとなく分かるんです。ビデオっていうのは一本一本誰かの人生が込められているんですね。だから僕が元気でいる限り、ビデオを集めることを続けたいです」 神宮慎也さん X(旧Twitter):https://x.com/team_vhs_jingu
里中高志