東京ヴェルディVS横浜F・マリノス、Jリーグ開幕戦に見た31年の時の流れ だが選手たちは「今」を戦っていた
【互角以上の戦いを見せていた東京V】 「もし、Jリーグが生まれていなかったら?」 その答えはゾッとするほど暗いものになる。Jリーグは、明るい希望を日本サッカーに与え続けてきた。その点、この日の試合は記念すべきものだったわけだが......。 東京Vは昇格チームながら、一昨シーズンのJリーグ王者である横浜FMを相手に互角に戦っている。前半7分、ゴール右から山田楓喜が左足でニア上を打ち抜き、先制に成功。山田は体を弾ませ歓喜、横浜FMのサポーターを沈黙させるゴールだった。リードした後も多くのチャンスを作り出し、戦術的にも、技術的にも、ほとんど圧倒していた。 ところが追加点をあげられず、後半に入って総力戦に疲弊すると、アディショナルタイムを含めて残り5分で屈辱の逆転負けを喫した。試合後の記者会見で、城福浩監督は憤懣やるかたなしという表情を浮かべていた。湧きあがる悔しさを持て余しているようだった。 「『(負けたが)内容は悪くなかった』、ではまとめたくないです。『よくやった』と言ってもらうために、自分たちはやっているわけではないので。ヴェルディサポと悔しさを共有し......記念試合がどうとかではない」 質問した記者は、ノスタルジックな答えを引き出したかったのかもしれないが、戦う者たちにとっては「今」がすべてなのだろう。ミックスゾーンでも、選手たちは当然のように、当日の試合にフォーカスしていた。過去ではなく、「今」を積み重ねることによってしか、彼らの明日もない。そもそも、93年のJリーグ開幕戦の前に生まれていた選手は、数えるほどしかいないのだ。 歓喜の勝利に沸く横浜FMのハリー・キューウェル監督は、終了間際の逆転勝利に顔を綻ばせていた。 「練習から、『シンプルに前方向を目指す』というのを選手には伝えてきました。諦めない姿勢のおかげで、結果がついてきたと思っています」 そのとおり、試合終盤は力技で押し切った。地力の強さは証明したと言えるだろう。決勝点を入れた松原健がサポーターの待つゴール裏へ走って、控え選手もそれを追いかけ、もみくちゃになりながら祝う様子には万感迫るものがあった。奇しくも、31年前と同スコアである1-2の逆転勝利だ。