「誤解」や「すれ違い」はなぜ起きてしまうのか? 豊富な事例から言葉の秘密を解き明かす
「冷房を上げて」と言われたら、あなたは設定温度を上げるだろうか? それとも冷房の出力を上げる(設定温度を下げる)だろうか? 【書影】『世にもあいまいなことばの秘密』 このように、言葉は読み方や文脈によって意味が変わることがあり、上記のような些細(ささい)な誤解から、時には争いを引き起こすことさえある。 こうした言葉の「あいまいさ」を理解し、他者とより円滑なコミュニケーションを図るにはどうすべきか。『世にもあいまいなことばの秘密』の著者、川添愛氏に話を聞いた。 * * * ――先生が言語学に関心を持ったきっかけはなんでしょう? 川添 大学時代の授業で言語学の先生にホメられたことがきっかけでした。「『天気が下り坂になる』という言葉があるのになぜ『上り坂になる』とは言わないのか」という質問をしたら、「そういうことが気になるなら言語学に向いているのでは」と言われたんです。 それまでは自分が研究してみたいことが明確になっていませんでしたが、言語学は面白いのかもしれないと思うようになりました。 ――どのような点に言語学の面白さを感じていますか? 川添 普段自覚していない"人間のすごさ"を感じ取れることですかね。例えば、「山田さんを営業部長として採用する」と「代官山を拠点として活動する」という文は、どちらも「AをBとしてCする」という形になっています。では、「BとしてAをCする」と語順を並び替えるとどうでしょう。 「営業部長として山田さんを採用する」は成り立つけど、「拠点として代官山を活動する」は成り立ちません。私たちは知らず知らずのうちにこうした違いを理解して言葉を使っているんですよね。 ――本書は言葉のあいまいさについて書かれています。このテーマで本を書こうと思ったきっかけはなんでしょうか? 川添 もともとは中高生でも読めるような言語学の本を書いてほしいという依頼をいただいていました。そこで、まずはSNSでよく見かける言葉の意味と解釈が食い違っている事例を集めました。そしたら、あいまいさだけで本が一冊書けてしまった、という感じです。