ぶいすぽっ!随一の“ゲラ笑い”コンビ 英リサ&橘ひなのが吹かせた“新しい風”を追って
変容していくシーンとファンの需要 “はなばな”は友情とともにある
前項では英リサ・橘ひなのの関係と人徳、そこから同時期にデビューしたFPS好きの女性VTuberたちの関係性について触れたが、続いては彼女ら2人と男性VTuber/ストリーマーとの関係についてだ。 VTuber~バーチャルタレントシーンでは、とある時期まで「男性VTuberと女性VTuberがコラボ配信するのはいけないこと」といった意見を持つファンが多かった(筆者が観測していた限り、という注釈は付くが、同じように思っていた人は少なくないだろう)。女性VTuberという存在がアイドル視されていたこと、実際にそういった売り方に振り切るタレントが多かったことなど、要因はいくつも考えられる。もちろん今もそういった風潮・考えを持つリスナーは残っている。 一方で、昨今ではこうした状況に対して変化の兆しも見られる。先日開催されたにじさんじの大型企画「にじさんじGTA」では、一連の企画を終えた振り返りのなかで「VTuberとファンとの関係」について、このように評したメンバーがいた。 「すこしメタいかもしれないけど、VTuberのことをアイドル的な観点で見られる方も多いと思うんですよ。全体的に見て男女の関わりが難しいとされる界隈だと思っている」 シーンについてこのように認識したうえで、「にじさんじGTA」では男女のタレント同士が合コンをしたり、交際に発展するロールプレイをしたりしながら、それをみんなが笑って楽しめるようなエンタメに昇華できたこと。そのことについて、「すごい素敵だ」と話をつづけている。 一例とはいえ、2024年現在、男女VTuberの関わり合いは友情を基点にしたエンタメとして受け入れられつつあるといえる。しかし、それでもタレント同士は“男女の関わり合い”についてをある程度意識しなければいけない状況であり、打ち消しあうことのない並走した状況であることがわかる。 とはいえ最初期にあったような、関わり合いをあえて避けなければいけないようなムードは、かなり変化してきたといえる。このように認識が変化していった背景について、少し考察してみよう。 まず、大きな理由として考えられるのは、VTuberとして配信活動をするうえで異性を避けて配信することが困難であったことだろう。長いスパンで考えたときに、異性を避けて「女性のみ」「男性のみ」の友人関係で活動を続けることは閉鎖性が高く、活動のマイナスとなるのは目に見えている。 くわえて、ゲームを使ったカジュアル大会・大人数企画に参加するうえでは、基本的に異性の存在は避けて通れない。こうした企画が大きな支持をあつめ、そこから相乗効果で参加者のファンが増えていくこともある。 シーンにさまざまなエンタメ企画が増えていった結果「男性・女性VTuberがゲームなどを通してコミュニケーションを取ることは普通のこと」という認識がリスナー・タレント両方に広まったことなどがあげられる。 そんななかにあって、英リサ・橘ひなのの2人は、UUUM所属のYouTuber・カイトことヘンディーとFPS系ストリーマー・kamitoの2人と非常に仲が良く、「ヘンリサ」「おれあぽ」というコンビ名でファンの間に浸透している。 英とヘンディーの2人は、橘ひなのとの『Apex Legends』3人コラボで初対面して以来、数年ほどのあいだで幾度となく共演してきており、そのコンビネーションも抜群。ぶいすぽっ!公式番組にもたびたび出演し、「山P・ヘンディー」「英・はなぶー」と呼びあう砕けた友人関係を築いている。 対して、橘とkamitoの出会いは、4人が関わった「芸人旅団」からだ。 サバイバルゲーム『Valheim』を大人数でプレイしようと考えていた英が、橘に声をかけ、直前にコラボ配信していたヘンディーを誘い、さまざまな面々をあつめることになった。結果集まったのは英、橘、ヘンディー、胡桃のあ、バーチャルゴリラ、白雪レイド、ギルくん、そしてkamitoの8人。2021年2月に8人で初めて配信が行なわれた。 マンガ『HUNTER×HUNTER』の幻影旅団を意識しつつ、「芸人のように面白いメンバー」という意味合いでつけられた「芸人旅団」は、その後も2人~4人コラボ配信をする際に顔を合わせたり、様々なカジュアル大会、ストリーマーサーバーに参加するようになったことで、その仲の良さ・繋がりが知られていくようになった。 2023年夏には、なんと「芸人旅団」としてグッズ販売・イベントなども展開され、8人それぞれのオリジナルグッズ・オリジナルカフェが、東京スカイツリー・東京ソラマチにてポップアップショップとして展開された。配信をともにする男女の友人グループが、事務所などの垣根を越えたオリジナルプロジェクトとして立ち上がったことは驚きに値する。 この集まりで初めて顔を合わせた橘とkamitoは、共に当時大流行していた『Apex Legends』をプレイしており、ランク帯が近かったことでタッグを組むようになった。 橘とkamitoの髪色(白×黒のオレオカラーとピンク×黒のアポロカラー)を由来とした「おれあぽ」は、kamitoの母親になぜか橘ひなのが認知されたり、クリスマスに合わせてコラボ配信をおこなうなど男女コンビとして話題を振りまき続け、やがて他のストリーマーやVTuberにイジられるほどの有名コンビとなったのだ。 その影響力は日本どころか海外にも及んでおり、つい先日ぶいすぽっ!の英語圏プロジェクト『VSPO! EN』からデビューした青月レミアが配信中に触れているほど。kamitoと橘が配信内であつまると、「oreapo」というコメントが投稿されることがあり、その人気は海外へとわたったのが伝わってくる。 とはいえ、当の4人はゲーム友達・配信仲間としての仲の良さ・相性の良さをウリにしており、それぞれの間に恋愛感情は一切ないことを何度となくアナウンスしている。友人であるストリーマーやVTuberから配信のワンシーンとしてイジられることは良いとしても、ファンから極端にイジられ続けるなど、当人2人からして目に余る行為が多発したことで、強く注意喚起していたこともあった。 先に書いた通りさまざまな理由によって、リスナーの需要・視点に大きな変容が訪れ、そのなかで「ヘンリサ」「おれあぽ」のような男女コンビが大きな注目を集めていたこと。あらためて考えてみれば、当人らにしても大きな変化だったのではないだろうか。 2024年現在、4人はそれぞれのペースで配信活動をしており、「2人のみ」で配信することはかなり減ったが、彼女ら4人の人気に「ヘンリサ」「おれあぽ」が一役買ったことは否定できないだろうは。 それらを抜きにしても、ヘンディー、kamitoの2人にバーチャルゴリラ、白雪レイド、ギルくんを加えた5人はぶいすぽっ!公式番組『ぶいすぽっ!激烈かしましロード』に最初期のころから出演、ぶいすぽっ!メンバーの配信ではよく顔を合わせるメンバーとして、ファンにとって馴染み深い存在と言って良い。 その後、他企画で関わりをもつようになったボドカ、SHAKA、MOTHER3、Clutch_Fiなど様々な男性ストリーマーやタレントが出演するようになったが、先にも述べた「男女の関わりあい」に壁があれば、こういったメンバーの出演すらためらわれたはずだ。 VTuberシーンにおけるファンの変容、「男女コンビ」による配信と楽しみ方・面白さを植え付け、広げたという意味で、英リサ・橘ひなのは少なからず影響を及ぼしたといえる。「男女にかかわらず仲の良い人と配信をしていく」という2人のスタンスは、後年たしかなレガシーとなって様々な形で顔をのぞかせていくだろう。
草野虹