<芽生えの春・有田工センバツへ>第1部/上 無欲と献身の初出場 /佐賀
「このチームが甲子園に行けるとは思わなかった。組み合わせや運が良かった」と喜びとともに驚きを見せる梅崎信司監督(42)。創部122年で初めて春の切符をつかんだ。20年以上も特別顧問として野球部を見守っている長島彰さん(77)は「監督は謙遜するけど、選手が気づいていない実力が発揮された。とにかく練習している」と称賛する。 昨秋の県予選は有田工と異なるブロックには、昨夏の甲子園出場校の東明館や、ともに夏に全国制覇経験のある佐賀商、佐賀北が準々決勝までに対戦する組み合わせ。春夏通算7回出場の唐津商が新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)で辞退するなど波乱の大会となった。その中で着実に勝利を重ねたのが有田工だった。 梅崎監督は上位進出が期待された2回戦の伊万里戦がカギだったと振り返る。試合は一回裏、土谷凱生選手(2年)の犠飛で先制。しかし二回表に3点を返され、その裏に北川晴翔選手(1年)の二塁打、塚本侑弥投手(2年)と松尾脩汰選手(同)の適時打で3点を奪って逆転したが、四回表にさらに2点を失って逆転を許す。梅崎監督も二度も逆転される展開に「もうだめか」と諦めかけたが、選手たちは六、七、八回に1点ずつを加点して勝利。実力校に競り勝ったことで「好投手も打てると自信がついて勢いに乗った」と語る。九州地区大会でも勢いは続いた。「九州地区大会に進んだら相手は格上ばかり。挑戦者の気持ちでプレッシャーがないのが良かった」という。 梅崎監督は「監督も選手も迷いがない」とチームの強さを分析する。昨年は主戦級の投手3人をどの試合に先発、継投させるかに迷いがあったが、今年は主戦塚本の一択。打線も自己分析できている。梅崎監督は「選手は自分たちがうまくないと分かっているので、スクイズのサインを出しても素直にやる。この場面ではこの戦術しかないと迷いがない」という。上原風雅主将(同)は「自分たちは力はないからフライを上げず内野の間を抜ける打球を狙う。そして守備から流れを作ってつなぐ野球する」と話す。選手が自分の力や役割を理解しながら犠打飛や盗塁などを巧みに使うことを共有できている。 梅崎監督や浦川祐伯部長、選手全員が初めての甲子園だ。梅崎監督は「出場するからには甲子園のすべてを経験して雰囲気を楽しみたい」と心を躍らせる。無欲と献身に貫かれた有田工が全国の舞台で旋風を巻き起こす。【井土映美】 ◇ ◇ 創部122年目で初のセンバツ出場を決めた有田工。「芽生えの春」を迎えたチームの戦力や、選手の意気込みなどを紹介する。