元横綱・白鵬からも愛される羊飼い「モンゴルとの橋渡しを」 岩手山のふもとの草原で放牧
「イーハトヴは一つの地名である」「ドリームランドとしての日本岩手県である」。詩人・宮沢賢治が愛し、独自の信仰や北方文化、民俗芸能が根強く残る岩手の日常を、朝日新聞の三浦英之記者が描きます。 【画像】羊の放牧「それならできる」 岩手山のふもとで放牧するようす
地域の人に支えられながら…
ピュルル~。 岩手県滝沢市の岩手山のふもとに広がる草原に、涼やかな風に混じって羊飼いの口笛が響く。 モンゴル人のラオグジャブ・ムンフバットさん(36)は、地域の人に支えられながら羊の牧場経営を続ける。 モンゴルの首都ウランバートルから西に約1千キロ離れた草原で、遊牧民の子として生まれた。 季節が変わる度にゲル(家)を移動し、馬に乗って水をくみに行ったり、草原で羊や牛を育てたり。 「小さいころは馬よりも自転車に憧れて。祖父と市場に行き、カシミヤの毛と自転車を物々交換してもらいました」 小学4年生からはウランバートルに引っ越し、勉強に励んだ。 モンゴル相撲でウランバートルのチャンピオンになって、教師たちからは「横綱」と呼ばれた。
岩手大に留学、日本とモンゴルの橋渡し役に…
中学生の時、ソニーの創業者の一人、故・盛田昭夫氏の著作を読み、優れた製品を作り出す日本の技術に憧れた。 高校では日本語を学び、2009年、奨学金を得て岩手大人文社会科学部に留学した。 在学中の4年間、モンゴルの文化を日本に伝える活動を続けた。11年には東日本大震災が起き、モンゴルからの支援物資を被災地に届けた。 日本とモンゴルの橋渡し役になりたいと、卒業後の13年には滝沢市の入浴施設の敷地内に「滝沢モンゴル村」をオープン。 ゲルに泊まってモンゴル料理を味わえると好評だったが、入浴施設が16年に閉鎖されてしまい、モンゴル村も廃業に追い込まれた。 アルバイトで食いつなぐ日々。そんなある日、宴席でモンゴルの羊肉料理が話題にのぼり、「羊の放牧をやってみないか」と誘われた。 「ああ、それならできると思った。羊肉はモンゴルでは外せない食材。僕の離乳食も羊のスープだったから」