酔いどれ編集長のクラフトビール飲みある記(92)聖地・ポパイで「両国麦酒研究所」のIPAを飲んできた(前編)
「クラフトビールの聖地」という表現をこの連載で使ったことがある。連載14回目で東京・代々木にあるWHのことをそう称した。WHをそう呼ぶ人は多いが、元祖クラフトビールの聖地といえば、東京・両国の「麦酒倶楽部ポパイ」であることに異論を差し挟む人はいないだろう。 インターネットで検索すると、ポパイは1985年、青木辰男氏さんが日本初のクラフトビール専門店として創業した。「DREAMBEER(ドリームビア)」という全国各地の個性豊かなクラフトビールを、自宅に居ながらまるで旅するように楽しめる会員制サービスのサイトによると、<それまでタブーとされていた数社のビールをひとつの店で扱うことを、日本で初めて実現させた>という。カウンター内の壁などに設置されたタップの数は100以上。初めてカウンター席でランチを食べたときは、そのスケール感に圧倒された。 同サイトによると、青木さんは2020年には地元・両国にブルワリー「両国麦酒研究所」開業をコンサルティングしたとある。同研究所のビールは、ポパイの自家醸造といってもいいだろう。その前にも2014年に酒造免許が下りて、自家醸造第1号のペールエール「ゴールデンスランバー」を造っている。 実は代々木のWHをイニシャルで表記し、ポパイを両国のPにしなかったのは、ビールを自家醸造しているかいないかの差だ。自家醸造のビールを置いてある店は店名を表記することにしているのだ。逆に自家醸造のビールがないクラフトビール専門パブ(バー)はフルネームを出さないことにしている。そうはいっても、WHではあまりにもそっけなさすぎると反省。これからはウォータリングHとする。 今でこそ、大相撲観戦後にちょくちょく利用しているが、僕がポパイの存在を知ったのは10年ほど前だった。しかも、今はなきテレビ朝日系バラエティー「タモリ倶楽部」でだった。両国の店内で、タモリがポパイの自家醸造ビールにホップを投入してビールを仕込むというものだったと記憶しているが、ネットを検索しても出てこない。とはいえ、タモリのおかげでポパイの存在を知ったのは間違いない。 2020年11月に来店したときのことはよく覚えている。新型コロナウイルス感染症の影響で大相撲九州場所がなくなり、両国国技館で開催されたときだ。友人の作家、須藤靖貴さんと大相撲を観戦後に行った。「第3波」が襲っている最中だったので、寒さを承知でテラス席を予約していた。ところがこの日は、予想より気温が高く、しかも心地よい風も吹いている。コロナ感染予防対策を考えても、屋外でビールを飲むにはこれ以上ないほど条件がそろっていた。これには須藤靖貴さんもニコニコ顔だった。