【大学野球】故障を乗り越えて…完全復活を目指す秋 東大の安打製造機・酒井捷
一時は就職活動にも着手
しかし、再び試練が訪れる。6月にハードワークが原因の横紋筋融解症で、約1週間の入院生活を送った。血液検査で異常な数値が出て、点滴治療などを繰り返した。苦難を乗り越え、退院後は地道にリハビリを重ね、7月末にはオープン戦に出場するまでに回復した。 一時は、就職活動に着手したという。 「プロは無理かな? と……。自分は社会についてあまりにも知らなすぎました。就活を通じて、OB、先輩と接する機会に恵まれ、視野が広がりました。勉強の時間を過ごしたんですが、むしろ、プロに行きたい思いが強くなったんです。『人と同じは嫌だ』という気質がある。右投げ左打ちの外野手となると、圧倒的な打撃、足を見せないといけない。自分の成績よりも、チームの力になりたい」 東大は1998年春から53季連続最下位。酒井は東大野球部を変革したいという思いがある。 「東大は負け犬、負けグセ、一番弱い、と言われる。負けが当たり前になっている。コンフォートゾーン、そこに収束しているんです。今までと同じことをしていたら変わらない。各個人が心地良い環境で野球をやっていたら6位。もっとギラギラしても良いと思います。これまでは学年が変わるたびに、チームカラーも変わっていた。チームとしての仕組みを確立する必要性を感じています。昨年の主将・梅林さん(浩大)はその部分を痛切に訴え、実際に動きました。今年の主将・藤田さんもその思いを継ぎ、来年は自分たちの代になりますが、東大が勝てる文化を植え付けたい。東大野球部での時間を大切にして、後輩たちに何かを残していきたいと考えています」 故障はつらく、本当に長かった。その分、考える時間が増えた酒井は、人として大きく成長した。心が充実し、完全復活を目指す今秋は、野球への熱き思いが、プレーにも出るはず。東大の安打製造機・酒井の一挙手一投足から目が離せない。 文=岡本朋祐
週刊ベースボール