【大学野球】故障を乗り越えて…完全復活を目指す秋 東大の安打製造機・酒井捷
「メンタル的に病みました……」
順風満帆だったが、今年2月下旬、鹿児島キャンプでアクシデントが起きた。守備練習中に、左中間の飛球を捕球しようとした際に、味方と交錯しかけ、避けようとした際に不規則な体勢になった。「バキッと音がしました」。MRI検査の結果、右膝前十字じん帯を断裂。手術をする選択肢もあったが、全治10カ月で、春、秋の2シーズンを棒に振ることになる。PRP療法で早期復帰を目指した。 酒井はケガをした当初の状況を振り返る。 「メンタル的に病みました……。(一誠寮の)部屋からも出られない。一番、厳しかったのは、3年間、お世話になった4年生の力になれないということ。先輩、同期、後輩にも一切、会いたくない。引きこもりでした。風呂にも皆が寝静まった朝3時頃に入っていました。ある夜、トイレに行った際に主将・藤田(藤田峻也、4年・岡山大安寺高)さんとたまたま顔を合わせたんです。その場では何も言えず……。涙が止まりませんでした」 松葉づえでの生活が1カ月以上続き、4月になって、ようやく自力歩行が可能になった。 「ずっとギプスで固定していたからか、足が伸びないんです。太ももの筋肉を強化するトレーニングの日々。顔は真っ白。体重は7~8キロは減少しました。リハビリは正直、孤独できついです。そこでアナリストの内田倖太郎(3年・広島学院高)に、学生コーチの酒井太幹(3年・筑波大駒場高)が各メニュータイムキーパーなどで付き合ってくれて、励みになりました。自分のために時間を割いてくれて……。感謝してもしきれないです」 チームメートは、神宮で東京六大学春季リーグ戦を戦っていた。スタンドで応援するのは複雑な心境だった。野球部OB、関係者に会えば、激励のメッセージ……。ありがたい言葉ばかりだったが、プレーできないもどかしさが上回った。気が乗らないこともあった。そこで、東大野球部の先輩からこう言われた。 「苦しい気持ちは痛いほど分かるが、周りは皆、酒井の姿を皆が見ているぞ!!」 以降、以前に増して全力で応援した。チームメートの活躍を自分のことのように喜んだ。昨秋の酒井の活躍に刺激を受けた同級生の大原海輝(3年・県浦和高)が、外野手部門で初のベストナインを受賞した。