『虎に翼』『ブギウギ』同時代を描いた2作品がコラボ “スンッ”としないりつ子の強い信念
りつ子(菊地凛子)と寅子(伊藤沙莉)に共通する“仕事と育児”の悩み
毒舌で思ったことをズバズバ伝える彼女は、権力にもおもねらない。太平洋戦争下、警察に派手な衣装やメイクを注意され、厳しい取り調べを受けても、決して従わなかった。そんなりつ子には子供がいて、仕事のために実家へ預けていることがのちに明かされる。自分は子供と離れ離れになっても、周りから“子供を捨てた親”と後ろ指を指されようとも、歌手でいることを選んだ。その後ろめたさや罪悪感も含め、自分の人生に責任を持つ。菊地凛子はりつ子の矜持を、まるで淡谷のり子が乗り移ったかのように全身全霊で体現した。 夫からも子供たちからも虐げられてきた梅子(平岩紙)が家族を捨てる覚悟を決めた回に、そんなりつ子のコンサート出演決定をぶつけてきたのは、梅子の選択を肯定する意味もあるのではないだろうか。また寅子も仕事が忙しく、娘である優未(金井晶)の面倒はほぼ花江(森田望智)が見ている状態だ。花江の負担を心配する声が挙がっている中、りつ子との出会いは寅子が仕事と家庭生活の兼ね合いについて改めて考えるきっかけになるかもしれない。 久しぶりの登場となったりつ子は、久藤に「その軽薄さ、相変わらず下品ね」と言い放つ。その毒舌っぷりも、凜とした佇まいも以前のままで嬉しくなった。普段は感情をあまり表に出さないりつ子だが、一度だけ泣き崩れたことがある。それは、慰問公演のために訪れた鹿児島の海軍基地で、隊員のリクエストに応えて「別れのブルース」を歌った時だ。隊員たちはりつ子の歌声にしみじみと耳を傾けた後、口々に「もう思い残すことはない」「いい死に土産になる」と礼を言う。人を生かすためだったはずの歌が、死にゆく覚悟を決めさせた。その出来事はりつ子の心に大きな傷を残した。そういう悔しさを経験したりつ子だからこそ、家裁のコンサートで歌う意味があるように感じる。戦争で親を亡くし、罪を犯さなければ生きていけなかった戦争孤児も含めた少年少女たちを導き、大庭家の遺産相続問題のような家庭内の問題を扱う家裁。りつ子の力強く愛のある歌が、悩みを抱えた人たちが一歩を踏み出すきっかけになることを願ってやまない。
苫とり子