生乳・肉牛一部で出荷再開 能登地震3週間・農業は 断水や寸断、なお窮地
能登半島地震の被災地で、中断していた生乳や肉牛の出荷を再開する動きが出てきた。ただ、依然として断水や道路の寸断が多い中、餌や水不足に苦しみ出荷再開できずにいる畜産農家は少なくない。22日で地震発生から3週間。廃業や経営縮小を検討する農家も出始め、営農継続へ早急な支援が求められる。 【画像】地震発生から3週間。被災地で進む復旧作業 「ひとまずは毎日の収入が確保できて安心した」。能登町の西出牧場の西出穣代表は、安堵(あんど)の表情を浮かべる。 乳用牛約50頭を飼養する同牧場は、1日700リットルの生乳を出荷していたが、地震による道路の損傷で出荷できずにいた。輸送ルートの回復に伴い、14日から出荷を再開した。 水不足などの影響を受け、乳量は通常より1割ほど少ない。地震で損傷した牛舎の建て替えなど課題も多いが、西出代表は「まずは乳質の回復に努めたい」と前を向く。 県のブランド和牛「能登牛」を1000頭飼養する能登牧場(能登町)は10日、地震後初めて去勢牛7頭を出荷した。15日の東京都中央卸売市場食肉市場でせりにかけられ、うち1頭が同日の去勢の最高値を付けた。 同牧場では、牛舎の亀裂や道の崩落が徐々に広がり、予断を許さない。平林将専務は「せりの結果は全国からの応援のおかげで本当にありがたい。厳しい中だが生産者全体が前を向けるよう盛り上げられれば」と話す。
ただ、被災地では広い範囲で断水や道路の寸断が続く。多くの畜産農家はなお、牛に十分な餌や飲み水を与えられず、出荷再開も見通せない。 県の調査では、断水が続く県内の畜産農家は43戸。県酪農業協同組合によると、県内31戸のうち地震で集乳を中断したのは13戸で、21日時点で10戸が再開できていない。 「誰でもいいから命があるうちに牛を引き取ってくれないか」。珠洲市で乳用牛など約40頭を飼う坂本牧場の坂本正光さん(75)は疲れ切った表情で訴えた。地震による経営への打撃が大きく、廃業を検討している。 断水が続き、牛に十分な飲み水を与えられず、餌も通常の4分の1に減らしている。坂本さんは「日に日に衰弱していく牛を見るのは心が痛い」と話す。 「能登牛」100頭を飼養する柳田肉用牛生産組合(能登町)でも水と餌を十分に確保できていない。息絶える牛も出ており、駒寄正俊組合長は「電気も水もなく、子牛に人工乳があげられない。これ以上、死亡牛を増やしたくない」と訴える。(浦木望帆、島津爽穂)
日本農業新聞