「セクシー田中さん」問題、日テレ・小学館の「調査報告書」に釈然としない理由
逆に「4」の危機管理体制は、令和時代に求められる対応。どうすれば脚本家のSNS投稿を防ぐことができたのか。それに対する世間の反応にどう向き合い、原作者にどう寄り添えばよかったのか。「出版社やテレビ局は、原作者や脚本家など当事者のSNS投稿にどう関与し、事態の悪化を防ぐために何をすればいいのか」という重要な論点を提示できたことはポジティブなことでしょう。 芦原さんがXに投稿した最後の言葉は、「攻撃したかったわけじゃなくて。ごめんなさい。」でした。これは「自分の投稿が多くの人々がネット上で脚本家を攻撃することにつながった」ことに対する言葉でしょう。テレビ局や出版社には「当事者がこの事態に心を痛めていた」ことを忘れず、ガイドラインのような組織的な対策を求めたいところです。
■むしろ原作者の顔色をうかがう傾向 調査報告書の内容を報じたある記事のコメント欄に、「テレビ局も出版社もプロデューサーから脚本家に至るまで、オリジナル脚本ではない、原作付きのドラマをやらせていただいてることへの意識改革まで踏み込まなきゃ終わらんだろ」という書き込みがあり、1.5万もの「共感した」が押されていました。 その指摘は間違ってこそいないものの、筆者が日ごろ取材している限り、「現在そのような意識改革が必要なスタッフは、ごく一部に過ぎない」という印象があります。昭和・平成の時代はさておき、現在のプロデューサー、演出家、脚本家らは原作へのリスペクトがあり、原作者の意向を第一に考える人がほとんど。むしろ「原作者を怒らせないように……」と顔色をうかがい、気をつかいすぎる人が増えて、逆に原作者から「自由にやってください」と背中を押されるケースをよく見かけるくらいです。
そんな現状は小学館の調査報告書の中にも書かれていました。今後に向けた問題提起のところで、「本事案における日本テレビ側の対応は、異例と思われる。何度修正を申し出ても対応しない場合はどうするかについても対応が必要である」という記述があったのです。わざわざ“異例”と書かれているように「ほとんどない」のが実情なのでしょう。 さらにもう1つ挙げておかなければいけないのは、漫画原作のドラマに関する人々の誤解。筆者は東洋経済オンラインで「『セクシー田中さん』悲劇を受けた春ドラマの現実 あれから4カ月、ドラマ制作は変わったか?」というコラムを書き、5月18日にアップされました。