現地で見た「中国経済暗転の兆し」 ハイテク産業にも迫るバブル崩壊の足音
矛盾している対外政策
――経済に暗い兆しが見えていることは、中国の対外政策に影響を与えるでしょうか。たとえば、外国からの投資を得たいがために、中国が今後大人しくなる可能性はあるでしょうか。 【ヤーロー】この問題に限らず、中国の政治家が行なうことを予測するのはじつに難しいことです。なぜならば彼らの決定は、北京のごく少数の人びとのあいだに委ねられているのですから。 いま明らかなことは、中国は輸出に大きく依存しているということです。すでに強調したとおり、国内の経済は非常に低迷しています。今後5年間、中国がもしも幸運であれば、輸出に依存しながら経済成長を遂げることができるかもしれませんが、そのためには輸出先の国と良好な関係を築く必要がある。 エドワード・ルトワックが著書『自滅する中国』(芙蓉書房出版)で指摘しているとおり、中国が地政学的な主張と輸出主導による経済成長を同時に実現させることは、不可能とは言いませんが確率は非常に低い。この2つは矛盾した政策なのです。 では、中国が輸出主導による経済成長を選び、地政学的な主張を諦める可能性はあるでしょうか。私には断言できませんが、それでも、政府が経済とは別の政策を優先する国家が存在することは、古今東西の歴史を見ればかわることです。 もしも私が中国政府にアドバイスを送る立場であれば、「友人が必要だ」と言うでしょう。そうでなければ、彼らは雇用を維持することができないかもしれない。 6月に世界経済フォーラムが主催する夏季ダボス会議が大連で開催されたとき、中国共産党のナンバー2の李強(りきょう)首相が世界経済の有力者たちに「中国に投資してほしい。中国は5%の成長を維持できる」と呼びかけていました。 ところが、中国は南シナ海周辺ではフィリピンとのあいだに軍事的な緊張を続けている。これでは中国政府の政策が分裂していると言われても仕方がない。おそらくは、国内のプレイヤーのあいだでも意見がわかれて衝突しているのでしょう。 私が懸念しているのは、国内の経済に対する不満から目を逸らさせるため、中国が「戦狼外交」をさらに加速させることです。尖閣諸島や台湾の問題で日本と対立することもあり得ます。中国がすぐに大規模かつ直接的な行動をとる可能性は高くありませんが、私を含む安全保障分野の専門家は大いに憂慮しています。 東南アジア諸国の研究者も、同じような心配を吐露していました。すなわち、国外に「敵」をつくることで、国内の不満を和らげる陽動作戦のようなものを展開する懸念です。 私個人の考えとしては、それほどその可能性が高いとは思いませんが、とくに中国政府はどのようなアクションを起こすかわかりません。だからこそ私たちは、中国という国をさまざまな角度から研究や分析をしなければいけないのです。
リチャード・ヤーロー(ハーバード大学ケネディスクール・フェロー)