「食べることが苦手だった」女性が管理栄養士となったわけは 筆文字作家としても活躍中
「えいようし おいしく食べる お手伝い」 「せいいっぱい がんばる姿に ひかれます」 かるたの読み札に、柔らかく丸みを帯びた毛筆の言葉が並ぶ。小さなアリがせっせとお菓子を運ぶ姿が描かれた絵札も愛らしい。 北直美さん(56)=京都府木津川市加茂町=は、管理栄養士の知識をいかして食のバランスなどを遊びながら楽しく学べるようにと、「食べものかるた」と「フレイル予防かるた」を作った。 お年寄りが手に取りやすく、見やすいよう段ボール箱に切り貼りして手作りしている。これまでに府内の高齢者施設や社会福祉協議会に20セット以上を届けた。口コミが評判を呼び、施設から依頼が届く。 「栄養士って食べることが好きな人が多いんだけど、私は苦手で」。子どもの頃、給食を残したり、食べるのが遅かったりすると教諭に厳しく叱られたことがトラウマとなった。それでも、高校生になって「栄養が体に入るとどうなるかを学ぶことはおもしろそう」と専門学校への進学を決めた。「食は人と人をつなぐことができる」と、健康を守る仕事に向き合い続けている。現在の目標はフリーの管理栄養士として、退院して日常生活に戻った人を訪問して食のサポートをすること。 「ハッピーかるた」は「読んでいると元気になる」と社協職員らからも好評だ。きっかけは慣れない業務を任されて思い悩み、家にこもりがちになったことだった。自分を励まそうと、前向きになれて心を癒やす言葉を集めていたら、かるたになった。小学校で働いた経験を生かして思いつくままに絵を描いた。「つらいときにふと、思い浮かべて心の支えになるように」。 ある日、高齢者サロンに招かれて札を読んでいると、腕組みして1枚も取ろうとしない男性の姿が気になった。終わった後、声をかけると「ずっとあんたの話を聞いててん。あんたを取って帰りたいと思ってんねん」と話してくれたことは心安らぐ笑い話だ。 筆文字作家として活動を始め、思いを込めたメッセージを店先などに届けている。何げない日常に溶け込むように、優しい文字が食の大切さを伝え、誰かの疲れた心にそっと寄り添い続けるよう願いを込めて。