災害時は「キャンプ道具でほとんど対応できる」 キャンパーの実体験にみる防災アイデア
経験から得た学びを日常生活に活かす
【佐藤】キャンプってたいてい、想定外のことが起きますよね? 【マミ】起きますね。私もたくさん失敗してきました。テントを建てようとしたらポールが折れるとか、寝袋を忘れるとか。でもキャンプの場合、楽しみにきているという前提があるので、「よし、乗り越えるぞ!」と気持ちを切り替えて、それすら楽しんじゃう。そうしたら、もうどうしようもないと思っていた事態が、案外その場にあるモノでなんとかなるんですよね。 【佐藤】寝袋を忘れたときはどうしたんですか? 【マミ】テントに身ひとつで寝てみたら、思ったより平気でした(笑)。そうやって失敗を重ねるうちに、「ひとつ失敗したら、ひとつ経験を得られる。今日はラッキーだぞ」と思えるようになりました。そのときはテントの下が土で過ごしやすい気候だったこともあったのでなんとかなりましたが、「環境が違っていたら......」と考える機会にもなりました。 【佐藤】そういう経験がベースにあったから、大型台風が来るというときに「キャンプの経験も、モノも、非常時にも役に立つんだ」という発見につながったんですね。それはとても自然な流れに見えるんですけど、マミさんたちの場合は、そこからさらにもう一歩ある。「キャンプや非常時に役立つ考えやモノを日常に取り込むことで、暮らしが豊かになる」という提案。これ、とてもいいと思ったんですよ。 【マミ】著書に込めたメッセージのひとつに「理想の暮らしと防災は両立できる」というのがありました。 【佐藤】その本を読んで、僕はすごくうれしくなりました。これこそがフェーズフリーな暮らしだと感じたからです。防災について「危険を察知するよう準備しておきましょう」「家のなかにも避難経路を設けましょう」と発信する人は多い。でもそこから、日々の暮らしでも役立つか、生活を豊かにするかというところには、なかなかつながらない。 【マミ】それには、私がズボラなことも影響しているかもしれません。ドアの近くにモノを置かないとか、モノがあるべきところにあって導線が確保されているとか、それをしておくと避難経路を確保できて防災になりますが、何より日々の掃除がラクなんですよ。 【佐藤】そうすることで、暮らしがよりよくなりますよね。災害が起きる前段階では、「災害予知」が大事といわれています。住まいに当てはめると、「普段と違う雲行きや雨風の強さを察知できるよう、大きな窓を作りましょう」となる。 でも、わざわざ大金をかけてリフォームし、"危険察知窓"みたいなものを作りたいと思う人は、あまりいないと思います。これが、庭や周囲の景色を楽しめて、自然光がたっぷり入って、そのなかで子どもたちがのびのび成長しているけるような窓なんです、と紹介すると......。 【マミ】そんな大きな窓のある住まいで暮らしたい。 【佐藤】そうなりますよね。多少お金をかけてもリフォームしたいという人が、少なからず出てきます。その結果、災害を予知しやすくもなる。これを本に出てきた言葉でいうと、「五感が育つ」家となって、そこには豊かさがありますよね。こんなふうに、よりよい暮らしを送りつつ防災もできている、というのがフェーズフリーの本質だと思います。
佐藤唯行(フェーズフリー協会代表),マミ(CAMMOC)