牧之原園児置き去り 判決公判で裁判長が涙「千奈ちゃんは両親を幸せにするため生まれてきた」
「千奈ちゃんはお父さんお母さんを幸せにするために生まれてきたのではないでしょうか」ー。牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」の送迎バスで河本千奈ちゃん=当時(3)=が置き去りにされ、熱中症で死亡した事件で、4日に静岡地裁で開かれた判決公判。閉廷の直前、国井恒志裁判長は涙で声を詰まらせた。語りかけた相手は、事件から1年10カ月が経過してもなお心の中で悲しみと憤りが渦巻く千奈ちゃんの両親だった。閉廷後、父親(40)は「『前向きに』というメッセージ性のある言葉をいただき、素直に受け止めることができた」と語った。 開廷から約40分後。前園長の増田立義被告(74)、元クラス担任(48)への判決を読み上げた国井裁判長は「3点だけ」と説諭を始めた。一つ目は、保育者は人の未来を育てる素晴らしい仕事だということ。「20年、30年たっても幼稚園の先生のことは忘れない。ただ、それだけに重い仕事です」。次に増田被告の実刑判決について、「あなたが過失を引き起こした」などと責任の重さを強調した。 最後に、「千奈ちゃんが生きてきた意味を考えました」と述べ、ついたてで傍聴席から見えない千奈ちゃんの両親に体を向けた。 6月の前回公判で両親があらわにした被告や同園に対する怒り、恨みに理解を示しつつ、その感情を持ち続けることは「千奈ちゃんが生きてきた意味とは違ってしまうのではないか」と語りかけた。「千奈ちゃんは子どもの命を守る大切さを私たちに教えてくれた」。傍らの裁判官も目を赤くしていた。 閉廷後に記者会見した父親は「普段は『前向きに生きて』と言われても素直に受け止めることはできないが、裁判長が感情的になりながら声をかけてくれたことはとても説得力があった」と話した。判決については「納得できる」とした一方、千奈ちゃんの遺影には「良かったねとは言えない。いつも謝っているので、(今日も)ごめんなさい、と謝ると思う」と複雑な表情を浮かべた。 ■増田被告「責任に向き合う」 牧之原市の送迎バス園児置き去り事件で禁錮1年4月の実刑判決を受けた増田立義被告は、代理人を通じ「今回の判決を大変重く受け止めております。自らの責任に真摯(しんし)に向き合っていく所存です」「今後とも千奈さんの慰霊、ご遺族への謝罪、償いを続けてまいります」とコメントした。 静岡地検の小長光健史次席検事は「事案や過失の内容、責任の重さを詳細に事実認定した上で、ご遺族の気持ちをくんだ判決がなされた」と受け止めを語った。
静岡新聞社