出井伸之と西室泰三:「シックスシグマ」栄えて工場滅ぶ|模倣された神話[ウェルチの弟子たちの罪と罰]
ジャック・ウェルチの存在感は今なお大きい(「Jack Welch Management Institute」HPより)
品質管理を中心に据えた経営改革手法「シックスシグマ(6σ)」の登場は、1980年代初めに遡る。当時、日本のポケットベル市場への参入に失敗した米モトローラが原因分析を進めた結果、劣悪な品質が元凶と断定。その対策として、日本のQC( Quality Control、品質管理)活動を参考に統計的な手法を取り入れて体系化した「全社的な品質改善運動」を指す。2000年代初頭からリーマン・ショックに見舞われる2008年まで、この「6σ」が米国内のみならず、日本を代表するエレクトロニクス産業の間で魔法の呪文の如く珍重されたのは、「20世紀最高の経営者」(米フォーチュン誌)と賛美されていた米ゼネラル・エレクトリック(GE)元会長、ジャック・ウェルチ(1935~2020年)が熱心に唱導行脚していたからである。 1995年6月、1カ月前に心臓バイパス手術を受け、自宅療養中だったウェルチはかつての部下(1984~91年GE副会長)ラリー・ボシディ(88)から見舞いの電話をもらった。長話になったのは、当時ボシディが米大手航空宇宙・自動車部品メーカーのアライド・シグナルの最高経営責任者(CEO)として熱心に取り組んでいた「6σ」に話題が及んだからだった。ボシディが語るところでは、一般的なアメリカ企業では平均100万回のオペレーションにつき3万5000回のミスがあるのが普通であり、品質を「6σ」のレベルにするというのは、ミスの頻度を100万回につき3.4回以下にすることなのだという。 ちなみに「σ(シグマ)」は統計用語で「バラツキ」を示す標準偏差である。1σから6σへ、数字が大きくなるに従って分布のバラツキは減っていく。例えば、4σは100万回当たりの不良率は6210回、5σは233回、そして6σは3.4回といった具合だ。
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杜耕次