フリーランスに切実に必要な「社会保険」
働き方が変わるなかで、フリーランスが注目されています。フリーランス協会代表理事の平田麻莉さんに聞きました。【聞き手・須藤孝】 【写真】マック最高齢女性クルー 90歳民子さんの“スマイル”の秘訣 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇いろいろな人がいる ――フリーランスはどのような人たちでしょうか。 平田氏 思われているよりずっと広い意味があります。会社員の対義語のようなものです。会社員と同じように、フリーランスもさまざまで、一言では言えません。自転車配達員のようなイメージもあれば、アーティストや作家、エンジニアやクリエーター、本当にいろいろな人がいます。 ――課題はなんでしょうか。 ◆大きな課題としては二つあります。一つは契約トラブルです。フリーランス新法ができたことで、かなり改善が期待されます。 もう一つは社会保障の問題です。対策が必要だという認識はできていて、少しずつ進んではいますが、まだまだです。 ◇95%が「社会保障が必要」 ――協会で会員を対象に調査をされていますが、社会保障へのニーズがとても強いのですね。 ◆会員の95%が、働き方の違いに左右されない社会保障が必要だと回答しています。会社員との差を感じている人が多いようです。 「不安定だから失業保険を求めている」と思われるかもしれませんが、それはビジネスリスクです。自己責任だという自覚があるので、求める人はそれほどいません。 問題は、出産や育児、介護、病気などのライフリスクのセーフティーネットです。年金も長生きの備えで含まれます。 人間ならばみな抱えている問題なのに、働き方によってセーフティーネットがある人とない人がいるのはおかしいと感じています。 ――政府は多様な働き方を勧めているのですが……。 ◆フリーランスが注目されているのは、育児や介護と両立しながら働き続けなければならない、あるいは定年後のセカンドキャリアなどの面からです。政府も旗を振っているにもかかわらず、保障は弱いままです。 両立のためにフリーになったのに、セーフティーネットがないから2人目は産めない、長く働き続けるためにフリーになったのに、病気になった時の保険が不十分、ということが、障害になっています。 健康保険では、社会保険では給付義務がある疾病手当金や出産手当金が、国民健康保険では給付されていません。 労災についても今秋からあらゆる職種のフリーランスが加入できることになりましたが、保険料は全額自己負担ですし、労災認定で業務起因の立証が難しいのではないかと指摘されています。 ◇仕組みを変えなければ ――会社員だけの働き方では持たなくなっています。 ◆仕組みを変えることは大変だと実感しています。たとえば政府の全世代型社会保障構築会議でも、報告書にフリーランスにも育児休業給付金に相当する制度創設を検討すると書かれているのですが、実現していません。 マイナンバー制度で所得捕捉が進み、保険料が適切に納付される仕組みが整っていけば、社会保障の実現を求めやすくなると期待しています。 ――偽装請負の問題もあります。 ◆実態としては雇用なのに、業務委託にしようとするのは、企業が社会保険料を負担したくないからです。企業を通して労使折半で社会保険料を集めるという仕組み自体を変える必要があります。社会保障が働き方に左右されないものになれば、問題は起きなくなります。 ――フリーランスが協会を作った意味をお話しください。 ◆協会ができるまではフリーランスという存在自体が見えにくいものでした。しかし、会員という形で声を集めて、可視化すれば、実現できることがあります。 会員も所属している感覚ではなく、インフラやコミュニティーとして使っています。私も代表理事ですが、誰かを束ねたくないし、束ねられたくありません。(政治プレミア)