「君、それは失礼だよ」メガバンク副頭取から教わったビジネスの必須マナー。背広から出したのは......
「すみません、名刺を忘れました」に
ある晩。銀行副頭取(当時)の自宅近くで待っていると、社用車で夜の会食から帰ってきました。 以前に名刺交換をしたことがある私に、「もう一度、名刺を」と言います。翌朝に取材を受けたことを銀行内で共有するためだ、と理由も明かしました。 近くに車を停めて身ひとつで待っていた私は、名刺入れを持ち合わせていませんでした。「すみません、名刺を忘れました」と釈明します。 すると、この副頭取は、こう言って私を諭しました。 名刺は絶対に切らしてはいけない。それが仕事で何より大事なマナーだ。
「切らしている」と言わないために
そう言うと、「ちょっと見せてやろう」と、背広のポケットをあちこち探します。手帳や財布、名刺入れ、携帯を取り出すと、それぞれから自分の名刺が数枚、出てきます。どれも同じ名刺ですが、保管場所を名刺入れだけに限っていませんでした。 「名刺入れがないから、名刺がない」「名刺をいま切らしているんです」というのは二流、三流の言い訳。いつでもどこからでも出せるように、財布でも手帳でも携帯でも、そこらじゅうに何枚も入れておくんだ。 商談でも取引でも挨拶でも、第一声で『名刺を切らしていまして』と言ったら、その時点で自分の立場がない。うまくいくものもいかない。 この副頭取は、法人営業の叩き上げとして、金融業界にとどまらず人脈が広い人でした。 浪花節っぽいところもありますが、副頭取が自宅前で親切心で教えてくれた「ビジネスマナー」は、会社の研修室でマナー講師から習うどんなお作法よりも、実践的で、核心をついていると、当時の私は感じました。
コロナ禍を経た2023年以降、名刺交換の場面で「すみません、いま名刺を持ち合わせておらず……」と、言う人に1度や2度ならず、会いました。みんな恐縮した様子です。 その人がいないところで、「あの人、結局、何者なんだったっけ?」「名刺がないと、よくわからないよね」と漏らす人も見かけました。時間が経ってそのままだと、名前も思い出せません。このため、「名刺を切らしていたときは、速達で先方に詫び状と共に送る」という助言をビジネス書でみたこともあります。 「名刺は両手で受け取る」や「名刺ケースの上に載せる」などは、本質的ではないような気がします。 それよりもまず、名刺を切らさないこと。そして予防策として、いつでもどこからでも出せるように、いろいろなところに携帯しておくこと。 オンラインで、いつでもつながれる時代ですが、なお重視されている名刺交換。一度、試してみてはいかがでしょうか。 文・編集:野上英文 デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)