斎藤元彦知事は「本当は良い人」か? アンチと強烈な支持者を生む人の意外な共通点
「気がしんどいですね」とぽつり
玉川氏を除く登場人物は石戸氏の取材に応じ、率直に自身の考えや悩みを口にしている。興味深いのはその「普通さ」だろうか。取材に対して彼らは神格化や悪魔化の対象とは思えない素顔を見せている。 たとえば吉村洋文・大阪府知事。所属する日本維新の会は発足直後から常に対立と分断を生む存在となってきた。石戸氏はコロナ禍の収まらぬ2021年、吉村氏と大阪のテレビ番組で共演する。以下はその時のエピソードだ。石戸氏は必ずしも吉村氏や維新の政策にはシンパシーを抱いていなかったという。 「しかし、初対面の印象は決して悪いものばかりではなかった。私の記憶に強く残っているのは、オンエアー中に連呼していた『府民へのお願い』や『方針』よりも、CM中にぽつり、ぽつりと自身の職責について語っていた言葉だった。 『体というより、気がしんどいですね。常に感染者数のこと、病床のことばかり考えていて、気が休まらないです。感染が広がれば、亡くなる人は増えます。医療従事者はずっと大変な状況にいる。飲食店をやっている友達だっていますし。かたや感染しても自分は大丈夫だと思う人もいる。難しいですよ、社会は。いろんな立場の人がいますから』 ただ一方的に『敵』を仕立て、自分を正義とする構造を作るのではなく、綺麗事だけではすまない複雑な社会と丸ごと向き合おうという気概は感じられた」(『「嫌われ者」の正体』より引用・以下同) 目の前にいるのは、維新の支持者が称賛するスーパー知事でもなければ、アンチ維新が口汚くののしる無能な為政者でもなく、疫病の前で苦悩する、ごく普通の男性だったのである。
弁護士時代も「記憶に残っていない」
この印象は周辺の取材でも強化される。吉村氏の弁護士時代を取材した石戸氏は、ある訴訟で対立していた弁護士らに話を聞くが――。 「拍子抜けするほど何も出てこなかった。彼らが口を揃えたのは私が取材で尋ねるまで吉村が関わっていたことなど全く知らなかったこと、そして弁護団の一人にはいたかもしれないが記憶には全く残っていないというものだった」 個々の置かれた状況やスタンス、主張、キャラクターは異なるものの、取り上げた人物は決して映画に登場するジョーカーのような特異な人物ではない。しかし何かをきっかけに、あるいはステップに、彼らは渦中の人となっていく。「嫌われ者」として君臨するのだ。 この構図は、先の東京都知事選でも見られたものだといえるだろう。数週間前まで都民の多くが知らなかった石丸伸二氏が、革命的なリーダーとして強い支持を得たのは記憶に新しい。その際には、支持と同じくらいの熱量での反発も生まれていた。