設備投資に1486億円 「富士山登山鉄道」構想に推進・反対派が真っ向対立 問題点はここだ
反対派の主張はどのようなものか
では、一方の反対派はどのような主張をしているのか。「富士山登山鉄道構想に反対するフォーラム」に登壇した元・都留文科大学教授の渡辺豊博氏は、「富士山はユネスコからさまざまな問題点・改善点の指摘を受けているが、登山鉄道を建設すれば、それらの問題が解決するかのような県の主張は誤っている」と声を張り上げる。 渡辺氏は「富士山の最大の問題点は管理が一元化されていないことだ。文化庁、環境省、林野庁などによる縦割り行政がそのまま適用されていることが、さまざまな問題を引き起こしている要因」と指摘。環境保護局が一元管理する海外の事例を挙げつつ「富士山を開発すること自体には反対しない。しかし、開発の前提として包括的な管理基本計画(富士山再生アクションプランのようなもの)が必要であり、大きな視野でどのように整備すべきかを検討する必要がある。それがないから県が暴走する」と、一元管理ができていない国の対応のまずさと県の姿勢を批判する。 富士吉田市では、現在、自動運転EVバスの実証実験を進めているが、これを前提に渡辺氏は「オーバーツーリズム対策ということであれば、海外の国立公園と同様、麓にゲートを設けて入山者の総量規制をすればよく、ゲートを通過した人たちはEVバスに乗って五合目へ移動してもらえばいい。登山鉄道など全く必要ない。むしろ、オーバーツーリズムの対策として重要なのは、お客さんを五合目に集中させるのではなく、さまざまな散策コースを設定するなどして分散させ、自然への負荷を軽減する視点だ」と言う。
冷静に問題点の整理を
さらに「1400億円ものお金を登山鉄道にかけるのならば、ほかに今すぐにでもやるべきことはたくさんある。まず、富士山には国営のきちんとしたビジターセンターがない。登山者や観光客が最初に訪れて情報収集するビジターセンターは必須だ。また、安全確保や自然保護の見地からは上下登山道の合流地点などの整備も必要だし、レンジャーの数も足りていない。米国のヨセミテ国立公園にはレンジャーが1000人いるが、富士山周辺にはわずか3人しかいない」と渡辺氏は現状の問題点を指摘する。 以上を見れば、反対派の主張に理があるように思われるが、「登山鉄道の建設は、富士山を傷つける行為。日本人が本当にやることか」(渡辺氏)というような反対派の主張には違和感がある。 登山鉄道を建設するといっても、既存道路の上に軌道を敷設するのであれば、「富士山を傷つける行為」とまでは言えないのではないか。渡辺氏の講演は、県を糾弾するために、やや感情論に訴えすぎているように思われる場面が多々あったが、県を過度に刺激するのは逆効果だろう。 県と反対派双方の主張を見聞きして感じたのは、お互いにもう少し冷静になって現状の問題点を整理するとともに、妥協点を見いだすことが必要ということだ。また、山梨県側単独で議論を進めるのではなく、静岡県側との連携も必要であろう。11月13日には知事と反対団体の意見交換の場が設けられる。ぜひ、この場を問題解決の糸口にしてほしい。
筆者プロフィール:森川 天喜(もりかわ あき)
旅行・鉄道作家、ジャーナリスト。 現在、神奈川県観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員。旅行、鉄道、ホテル、都市開発など幅広いジャンルの取材記事を雑誌、オンライン問わず寄稿。メディア出演、連載多数。近著に『湘南モノレール50年の軌跡』(2023年5月 神奈川新聞社刊)、『かながわ鉄道廃線紀行』(2024年10月 神奈川新聞社刊)など。
ITmedia ビジネスオンライン