設備投資に1486億円 「富士山登山鉄道」構想に推進・反対派が真っ向対立 問題点はここだ
設備投資額の合計は1486億円
次に、収支分析などについて見ていこう。設備投資額の合計は1486億円で、事業期間を40年とした場合の経済波及効果は1.56兆円、雇用効果は延べ12万人になると試算している。 LRTは複線軌道で整備し、6分間隔で運転すると仮定した場合、1日10時間、年間280日運行すると、年間の輸送人数は336万人になるとしている。この年間利用者数300万人、設備投資額1486億円、営業費用(年額)約35億円を収支分析の前提としているが、これはかなり無理がある数値と言わざるを得ない。 冬季の富士スバルラインは除雪車による除雪後も、路面凍結のために通行止めとなるケースが多く、五合目までの全線が営業できる日数は、年間223日程度(2012~17年度における平均値)である。ゴムタイヤの自動車に比べて粘着力の低い鉄車輪を用いる鉄道であれば、さらに営業日数は減らさざるを得ず、280日間フルで営業するのは困難だ。また、運賃1万円のLRTを6分間隔で運転しても、2両編成(定員120人)の車両の乗車率が100%になることはまずあり得ないだろう。 「中間報告」では、利用者数・設備投資・営業費用の3要素いずれの数値も37%悪化した場合に合計収支が0となる、つまりこれを損益分岐点としているが、少なくとも利用者数に関しては、もっと低く見積もるのが妥当と思われる。
技術的な不安要素
では、技術面はどうか。気になるのは、富士スバルラインは最大88パーミル(1キロ走行するごとに88メートル上がる)の急勾配や急カーブが多く、しかも勾配とカーブが競合しているところが多い。「中間報告」によると、脱線リスク軽減のため、噴射装置による増粘着剤の散布や、レールへの脱線防止ガードの設置により対応するという。 80パーミル前後という数値は箱根登山鉄道の最急勾配と同等であり、実績がないわけではないが、富士山五合目の標高は2300メートルであり、平地では考えられないような強風が吹き、急な天候の変化も多い。登山鉄道を実現するならば、今後、相当な検証の積み重ねが必要となるだろう。 技術面でもう1つ不安要素となりそうなのが、集電方式である。「中間報告」は第三軌条集電方式(架線レスシステム)が「実績があり優位性がある」としており、それ自体は景観保全の見地からも妥当であると考えられる。問題は、途中駅周辺や人が線路を横切る区間、急曲線区間では危険性を伴うため第三軌条を用いることができず、一部でバッテリー走行を視野に入れる必要があるという点だ。 バッテリーはどうしても、それなりの重量になる。最近は総重量を過度に増やすことなく、容易に搭載可能な路面電車を想定したバッテリーも開発されているとはいえ、車両重量の増加は急勾配を上り下りする鉄道にとってマイナス要素にしかならない。 ここで思い出されるのが、100パーミルの急勾配に対応するために強力なモーターを搭載したことから車体重量が増加し、構造物への負荷による危険性の増大などから、開業後1年半で休業に追い込まれた横浜ドリームランドモノレールの事例だ。今回のLRTも大型モーターの搭載が必要となり、車両の制動性能(ブレーキ)や路盤・路床および橋梁への影響なども考慮されなければならない。 こうした技術面に加え、雪崩、落石、火山噴火時の避難計画や自然公園法などの諸法令・規制への対応などクリアすべき課題は多く、実現するにはかなりの時間が必要となるであろう。県は最短でも工事着工まで8年かかるとしている。