シンワル氏殺害でハマス弱体化 イスラエル、人質奪還の好機か 抵抗継続の恐れも〔深層探訪〕
イスラエル軍は、パレスチナ自治区ガザでイスラム組織ハマスの最高指導者ヤヒヤ・シンワル氏を殺害した。昨年10月のイスラエル奇襲の首謀者とされるシンワル氏は、対イスラエル闘争の精神的支柱。イスラエル側は弱体化したハマスから人質を奪還する「好機」と捉えている。ただ、ハマスはガザ各地で抵抗を続けており、思惑通りに進むかは見通せない。 【写真】殺害される直前のハマス最高指導者シンワル氏とされる人物の画像 ◇「重大な節目」 「ハマス崩壊における重大な節目だ」。イスラエルのネタニヤフ首相は17日のビデオ演説で、シンワル氏の死亡に関し、こう強調した。「武器を置き、人質を戻せば、この戦争はあすにでも終わる」と述べ、ハマスに事実上の「全面降伏」を要求した。 ハマスは7月に軍事部門「カッサム旅団」のトップ、ムハンマド・デイフ氏をガザ南部の空爆で殺害され、当時の最高指導者イスマイル・ハニヤ氏もイランで暗殺された。シンワル氏は8月に最高指導者に選出されたばかり。後任を選出したとしても主要幹部を失った影響は大きく、組織の立て直しは容易ではない。 ネタニヤフ氏は、シンワル氏の死亡を好機と捉え、「人質を解放すれば身の安全を保証する」とハマス側に呼び掛けている。動揺するハマス戦闘員らの結束を断ち、人質奪還を一気に進めようとする狙いが見える。 ◇ガザでハマス不信も ガザでは昨年10月以降、4万2000人以上が死亡。廃虚と化したガザの避難民は人口の約9割に達した。避難生活を送る住民は疲弊し、ハマスに対する見方にも変化が見られ始めている。 パレスチナのシンクタンクが9月にガザで実施した世論調査では、ハマスによるイスラエル奇襲が「間違いだった」と答えた人が57%となり、開戦以降、初めて半数を超えた。ハマスが勝利すると答えた人は28%と前回6月の48%から急落し、抗戦を続けるハマス不信を浮き彫りにする結果となった。人道危機に直面するガザ市民の間でハマスへの停戦圧力が高まる可能性もある。 ◇遠い安定 存亡をかけたハマスの在外指導部が今後、強硬路線を転換し人質解放と停戦の交渉で譲歩することも予想されるが、1年以上戦闘を続けてきた「現場」の戦闘員が軟化するかは不透明だ。パレスチナ人のイスラエルへの敵対心は高まっており、イスラエル市街地でのテロが増加しかねない。 イスラエル軍は、ハマスに共闘してきたレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラとも交戦を続けている。ヒズボラは、ガザ停戦が実現すればイスラエル攻撃をやめると主張してきたが、度重なる幹部暗殺に反発。17日の声明では、「対決を激化させる段階に移行した」と表明した。 このため、ガザ停戦が実現してもイスラエルとパレスチナ勢力の攻撃の応酬やイスラエル軍のレバノン侵攻が続く恐れもある。イスラエルが、ハマスやヒズボラなどを支援してきたイランとの対決姿勢を強めれば、地域の安定は遠のくこととなる。(カイロ時事)