オフィスなの? 飲食店なの? デスクで働く社員が丸見えの「社食堂」が誕生した背景
収益は“とんとん” 儲けは福利厚生として還元
前述の通り、社食堂がオープンしたきっかけは社員の健康。メニューにもその考えが反映されている。 例えば、肉または魚から選べる日替わり定食(1320円)は主菜とごはんに加え、副菜3品と味噌汁がついている。それ以外にもカレーや丼ものを提供するほか、カフェメニューやアルコールも提供している。 社員は昼夜に利用し、一般客は昼食・カフェ利用が多い。近隣の会社員や住民、デザインに興味を持つ遠方からの来客もあるという。なお、運営スタッフは一般的な社食と異なり、SUPPOSE DESIGN OFFICEの社員として採用している。 気になるのが収益性だ。 「多くの一般客が利用しており、収益性は確保しています。ただ、社員はワンコインで食事できたり、100円でコーヒーを頼めたりするため、それらを踏まえると“とんとん”といったところです。一般利用で得た収益を、社員の福利厚生に還元しているような形です」(同) 平日の午後1時台に訪問したところ、確かに来客は多い。一般的なカフェレストランのような雰囲気だ。子連れで食事をするファミリー客や、読書にふける客も見かけた。イベント時にはさらに客が集まるという。
アイスや雑貨カフェなど、他業態とのシナジーも
社食堂には、飲食事業による実利益以上の効果があると吉田氏は話す。 「建築設計事務所によるアピールの場として機能しています。私たちがただ、各機能が同一空間上にあるオープンなオフィスを提案しても、そうした前例がない珍しいものはなかなか誰もやりたがらないものです。特にキッチン併設の場合は、においや音などを心配する意見もよく聞きます。 しかし、実際に機能しているところを見せることで、社食堂がプレゼンテーションの場となるのです。社食堂を見学した企業から当社にオフィス設計の依頼があったケースは、これまでに数多くあります」(同) 今後東京オフィスは移転する予定だが、移転先でも社食堂を設ける予定だ。その際は同社が広島で運営するクラフトアイスクリームショップ「yacone」も併設するという。同社は他にも文房具やハンドクリームを販売するコーヒースタンド「BIRD BATH&KIOSK」などを運営しており、相乗効果も期待できそうだ。 社食堂は今後、どう展開していくのだろうか。 「社食堂の店舗数を増やすことは考えていませんが、設計を通じて同様の空間が増えれば良いなと考えています。昔は別物として分けられていた生活と仕事ですが、働き方の中に食の場がある、そうしたスタイルを普及させたいです」(同) 1つの場所にオフィス・カフェレストラン・福利厚生・モデルルームと4つの機能を持たせ、限られた空間を最大限に活用する取り組みの社食堂。企業には平日の昼間しか利用者がいない食堂、誰も利用していない社内図書館など"遊休空間"が多い。コロナ禍で変化し始めたオフィスの在り方として、大いに参考となる事例だろう。
著者プロフィール:山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
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