オフィスなの? 飲食店なの? デスクで働く社員が丸見えの「社食堂」が誕生した背景
建築設計事務所のSUPPOSE DESIGN OFFICE(広島市、共同代表は吉田 愛氏・谷尻 誠氏)が、都内にあるオフィスの社員食堂を一般向けにも解放し「社食堂」として運営している。面白いのが、事務スペースとキッチンならびにレストランが同じ空間内にあり、それぞれが壁で分けられていないこと。オフィスといえば、個人や部署ごとにある程度の仕切りがあり、食堂も別室にあるのが一般的だ。 【画像】店舗の外観、オフィスで働く社員が丸見えな様子、おしゃれでオープンなキッチン、おいしそうな日替わり定食、丼物、カレー(12枚) なぜこれらを同じ空間上で運営しているのだろうか。社食堂の狙いとメリットを聞いた。
一般客から、働いている社員が見える
社食堂は「社員+社会の食堂」をコンセプトとした飲食店で、社員だけでなく外部からの一般客も利用できる。「タニタ食堂」のように社食を一般開放する取り組みは、今となっては珍しいものではなくなった。しかし社食堂では社員が働くスペースとキッチン、そして一般向けエリアが同じ空間上にある点がユニークだ。営業時間は日曜祝日以外の午前11時半から午後7時。当然、平日午後には一般客から社員の働く姿が見える。 広島・東京を拠点に活動する同社は、2017年に現在の場所へ東京オフィスを構えると同時に社食堂をオープンした。 「建築設計事務所での仕事は、新しいものを作る性質上、働く時間が長くなりがちです。また、そのために食事がないがしろになりがちなのが問題だと考えていました。やはり、良い仕事には良い食べ物を取り入れる必要があると思うんです。また、自分たちが良い空間で働いていなければ、良い空間デザインはできません。このように、社員の健康とクリエイティビティについて考えたのが、社食堂のきっかけです」(吉田氏) 業務スペースと同じ空間にキッチンがあるため、社員が忙しいときには調理スタッフが気を利かせ、おにぎりを握ることもあるという。社食堂にしてから、社員はコンビニに行かなくなったと吉田氏は話す。
どんなメリットが生まれたのか
東京オフィスは全体を見渡せるオープンキッチンが中心にあり、道路に面した入り口側が一般向けスペース、奥の半分が社員スペースだが、壁や目隠しがあるわけではない。こうした空間設計には、どういったメリットがあるのだろうか。 「社食堂はオフィスであり、食堂であり、ライブラリーでもあります。つまり、その時々で何をするかで、場所の名前が柔軟に変わる設計です。空間をあえて混ぜることで、社員が1人で黙々と仕事をしていたときには生まれなかった雑談やコミュニケーションが生まれるようになりました。新たな発想を生むことにもつながるため、設計者にはそうした雑談が大事なのです。 また、飲食スペースが混んでいるときには『この席を譲ってあげよう』と気遣いも生まれます。1人でこもって設計していては、そうしたことに気づけない人になってしまいますから」(同) 日本の大手企業では昨今、フリーアドレスが当たり前に見られるようになった。こうした取り組みは社員同士の意外な接点や雑談を生み出すことを目的としている。特に創造性を求められる設計者は、なおさらこもってばかりではいけない、ということなのだろう。 メリットの一方で、プライバシー面などデメリットはないのだろうか。 「当初は守秘義務を懸念する意見もありました。そうした課題は壁をつくるのではなく『距離』で解決しています。具体的には、機密事項などを扱う際は一番奥の静かなスペースを活用しています」(同)